ルーツ探訪 2007年
5月

★ 宮城県


●お供えの精進料理。旬の野菜を細かく切って、具だくさんの汁物に 《おくずかけ》

 伊達62万石の基礎を築いた藩祖・政宗は、農・林・漁業、鉱業、製塩などの産業振興に努めましたが、とりわけ米づくりを最重要施策とし、たびたび洪水を引き起こしてきた北上水系の水路を変え、湿地や荒地を開拓しました。歴代の藩主も政宗にならい、新田開発に力を注いだため、仙台藩は表高62万石に対し、実質石高100万を越える米の生産量があったといわれています。
宮城は、米どころであり、餅どころ。季節の行事や節目でなくとも、食べたいときに餅をつきました。餅料理の代表・雑煮は、実に具だくさん。ハゼの焼き干しでとったダシに、「ひきな」(ダイコン・ニンジン・コボウなどを千切りにして、さっとゆで、寒いところにおいて凍みらせたもの)をたっぷりと、さらに芋ガラや凍み豆腐、セリを入れて、しょうゆで味を調え、仕上げに紅白かまぼこ、かすてらかまぼこ、鮭のハラコをのせます。見た目も豪華な一品は、正月のお腹をふくらませるボリュームです。他にも、具だくさんの郷土料理といえば、お盆やお彼岸にずんだ餅(後述)とともに供えられる「おくずかけ」があります。これは、細長いたんざくに切った旬の野菜(ゴボウ、ニンジン、ダイコン、ナス、ササゲ、タケノコなど)とサトイモ、干しシイタケ、キノコ類、油揚げ、糸こんにゃく、焼き豆腐、豆麩を、たっぷりのだし汁で適宜煮て、しょうゆで味を付け、仕上げに片栗粉でとろみをつけた汁物です。温麺(うーめん:白石市特産の乾麺。油を使わずにつくっているので消化がよい)をいれる家庭もあります。野菜は細く切ってあるので、とろみといっしょにするすると食べられます。子どもたちの野菜嫌いを克服するために、親が工夫を凝らすメニューでもあります。

●採れたてのエダマメを使って。鮮やかな緑色のお餅は、お盆の風物詩《ずんだ餅》

 エダマメが出回る季節になると、餅の“あん”としてつくられるのが「ずんだ」。その語源は、豆をつぶす意味の「豆打(ずだ)」が訛ったものといわれていますが、作り方はまさにその通り。まず、やわらかめに茹で上げたエダマメをさやから取り出し、ていねいに薄皮を取り除きます。次に、すり鉢ですり(つぶつぶ感をどれぐらい残すかは好みで)、砂糖をからめて、隠し味に塩を入れれば出来上がり。みずみずしい緑色とふくいくとした香りが、食欲をそそることから、夏バテ時の栄養補給源としても重宝がられてきました。なるほど、エダマメにはタンパク質がたっぷり、カルシウムやビタミンB1、B2、ビタミンCも多く含まれています。
一方、400年の歴史がある伝統野菜・仙台長ナスを使った料理が「仙台長ナスのずんだあえ」。これは、長ナスをさっと茹でて、細切りにし、冷やしたものに前述のずんだをからめたもので、夏向けのさっぱりとしたおかず・お茶請けとして好まれます。
ずんだは、もともと傷みやすいものですが、最近では風味を損なわない冷凍ならびにパッケージ技術の開発により、土産品「ずんだ餅」は、その人気を全国に広げつつあります。ほかにも大福、まんじゅう、クッキー、アイス、シェイク、プリン…など、さまざまなずんだ商品が、店頭を賑わしています。




参考文献・サイト
「日本の食生活全集 宮城」編集委員会 『聞き書 宮城の食事』 (社)農山漁村文化協会
『県史4 宮城県の歴史』山川出版社


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