ルーツ探訪 2007年
4月

★ 山形県


●七草粥の代わりに食べられてきた、植物性タンパク豊富な汁物 《納豆汁》

 1月7日の人日(じんじつ)の節句に食べものといえば、七草粥。7種の野菜(せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ)が入ったお粥をいただくことで、邪気を払い、無病息災を祈る風習です。しかし、雪深い地方ではこの時期、七草を揃えるのは至難の業。そこで、山形県の内陸部を中心に、七草粥の代わりに昔から食べられてきたのが「納豆汁」です。
納豆汁は、すりつぶした納豆、1センチ角に切った豆腐、こんにゃく、油揚げ、芋がら(里いもの茎を干したもの)と、ねぎ、せりなどを入れてつくった具だくさんの味噌汁。大豆づくし(納豆、豆腐、油揚げ、味噌)の材料は、冬場に不足しがちなタンパク質を摂取するという点からも理にかなっています。芋がらは、カルシウム、鉄分、食物繊維を多く含んでおり、サクサクともシコシコともつかない不思議な食感が楽しめる食材です。納豆汁は、独特のコクがある深い味わいが身上。冬場には、体を暖めてくれる熱々の汁物として喜ばれてきました。江戸時代には、納豆ご飯同様、あるいはそれ以上の頻度で食卓にのぼっていたといいます。
山形県は、その名の通り山の国であり、また川の国でもあります。福島県との境に源を発する最上川は、県内を南から北へと貫流し、その本・支流を合わせた全流域は県土の8割にも及ぶ“母なる川”です。この川の潤いによって、山形は早くから稲作が定着し、「米どころ」として知られてきた歴史があります。炊きたてのごはんと、湯気の立つ納豆汁は、まさに郷土料理のゴールデンコンビといえるでしょう。

●炎暑たけなわの季節でも、食が進むおいしさ。夏野菜をふんだんに 《だし》

 山形県の内陸部、とりわけ山に囲まれた盆地では、冬は豪雪に見舞われる一方、夏は耐え難い暑さとなります。過去に40.8度という日本最高気温を記録(1933年7月25日)したこともあります。
さて、夏バテで食欲がないときでも、「これさえあれば、ごはんが進む」と山形の人びとが自慢する料理があります。酒の肴としても好まれる「だし」は、夏野菜の出盛りにつくられるお菜です。新鮮な食材がたっぷりと食べられ、滋養も、味も満点。しかも作り方も簡単です。採れ立てのなす、きゅうり、大根などを細かなさいの目に、そして、みょうが、大葉、しょうが、長ねぎなどの香味野菜をみじん切りにし、それらをうすい塩水にさらして、水気を切ります。独特の粘り気を出すために加えるのが、納豆昆布やオクラ。切った材料を全部あわせて、しょうゆ、白ごま、けずり節などて調味すれば、できあがり。枝豆やとうもろこしをはじいて入れれば、彩りも美しくなります。ごはんにのせてもよし、また冷奴の薬味がわりに使えば、ちょっとしたおもてなし料理にもなります。また、そばつゆに入れて、めんにからませる食べ方も人気です。




参考文献・サイト
「日本の食生活全集 山形」編集委員会 『聞き書 山形の食事』 (社)農山漁村文化協会


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