ルーツ探訪 2007年
3月

★ 岩手県


●旬の食材といっしょに煮込んで。引っつまんで鍋に入れるから 《ひっつみ》

 引っぱって摘んで、つまり引っつまんで鍋に入れるから「ひっつみ」。「とって投げ」と呼ぶ県北の地域もあります。さて、その投げやりとも思える名前に比して、お味のほうはお墨付きのおいしさ。長い間、人びとに愛されてきた歴史があります。寒さが厳しい冬には、岩手の人びとはアツアツのひっつみを食べて、体を芯から温めるのです。作り方も簡単。小麦粉に水を加えて、耳たぶぐらいの柔らかさになるまでよくこね、しばらく寝かせておきます。鍋にだし汁を張り、鶏肉、こぼう、にんじん、きのこ、ねぎ、みつ葉などの食材をたっぷり入れて煮立て、そのなかに、前述の小麦粉を薄くのばしながら、食べやすい大きさにちぎって入れ、最後にしょうゆや味噌で味を整えたら出来上がり。
昔は、貴重な米を節約するために、主食がわりに、また農作業時の「小昼(こびる)」などに食べられてきました。旬の食材を使えば、味わいのバリエーションも豊かで食べ飽きることもありませんし、栄養バランスもとれたものになります。また、この料理はひっつみに絡んでも負けない強めのだしをつくることがポイントになりますが、川魚(カジカやイワナ)を干したもの、干しきのこ、キジや鶏肉、魚のすり身…と地域によって多彩な味わいがみられます。そもそもは県央から県北の「旧南部藩」で盛んに食べられており、それは南部氏の本領である甲斐国(山梨県)の「ほうとう」に由来があるという説がありますが、定かではありません。

●お腹いっぱいになるまで振る舞う、もてなしの食文化がルーツ 《わんこそば》

 「それ、ジャンジャン」という給仕さんの賑やかな掛け声とともに、手元の椀のなかに、ひと口大のそばが投げ込まれます。食べた先から、すばやく次のそばが入れられ、どんどん椀が重ねられていきます。お客さんは「降参。もう食べられない」の意思表示として、椀にふたをするのですが、その間にも容赦なくそばが入れられ、なかなか許してもらえません。給仕さんとの掛け合いや攻防も楽しみのひとつ、遊びゴコロいっぱいの岩手名物「わんこそば」です。「わんこ」とは、岩手の方言でお椀を意味します。
その昔、岩手には田植えや稲刈り、祭りや婚礼の際に大勢の人が集まって宴を張る風習があり、その終わりに「お立ちそば」「そば振る舞い」といって、手打ちのそばが出されました。しかし、どんなに大きな鍋でゆでても、一度にたくさんはつくれません。そこで、椀に小分けして全員に配り、お客さんが満足するまで何度もおかわりをすすめるスタイルが定着していきました。これがわんこそばの由来とされています。一方、花巻市では「南部家第27世利直公が江戸に上がる途中、花巻に立ち寄られ、郷土名産のそばを召し上がったが、たいへんお気に召され何度もおかわりをした」という起源が伝わっています。
さて、わんこそばをたくさん食べるコツは、「そばつゆは飲まない」「あまり噛まない」「リズムよく」「薬味は、そばの味に飽きてから」だそうです。これまでの記録は、1996年に開催された「全国わんこそば選手権(盛岡市)」で、山梨県の男性が樹立した559杯(ただし時間無制限。現在は15分ルール)という記録で、未だに破られていません。花巻市でも毎年「わんこそば全日本大会」が開かれます。胃袋自慢の方は、挑戦してみてはいかが?




参考文献・サイト
「日本の食生活全集 青森」編集委員会 『聞き書 岩手の食事』 (社)農山漁村文
農文協 『伝承写真館 日本の食文化 北海道・東北1』  (社)農山漁村文化協会
岩手の文化情報大辞典 http://www.bunka.pref.iwate.jp/


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