ルーツ探訪 2007年
1月

★ 青森県


●津軽の冬の魚「鱈」を余すところなく。熱々に煮込んで《じゃっぱ汁》

 魚偏に雪と書いてタラ。津軽では「これがなくては冬(正月)が越せない」といわれるほどの食材です。昭和20年頃までは暮れの風物詩として、縄で結んだ鱈を引きずって雪道を帰る人びとの姿が見られました。こうして雪の冷たさで身を引き締めることによって、さらにおいしさが増すのだといいます。とりわけ陸奥湾の鱈は産卵のために集まってくるので、脂が乗って味わいも格別なのだとか。その鱈を食べ尽くすのが「じゃっぱ汁」。じゃっぱとは、津軽地方の方言で“捨てるもの”“残り物”の意。鱈は本来捨てるところがない魚といわれますが、身やタラコ、白子を取り除いたあとの、頭やエラ、中骨のアラや内臓、皮などを余すところなく、見事に使い切った料理なのです。作り方は、まず大鍋にたっぷりダシを取り、味噌、だいこんを入れてひと煮たちさせ、そのなかにザク切りしたじゃっぱを入れて煮込みます。煮立ったら、ネギのぶつ切りを入れますが、ここでより濃厚なコクを出すために「アブラ」と呼ばれる肝臓を入れます。アブラの入らないじゃっぱ汁は、軽味で水くさいと津軽の人は言います。ちなみに先に味噌を入れるのは、生臭みを取るためと味をしみこませるため。熱々の汁をフーフー言いながら食べているうちに、どんなに冷え切った体でも芯から温まってくるから不思議です。

●“女正月”に備え、大鍋に作り置き。滋味豊かな保存食《けの汁》

 「粥の汁」がなまって「けの汁」または「かえの汁」。元青森県知事(昭和38年〜54年)の竹内俊吉が「けの汁を七草がゆとして食うべ」と詠んだように、冬になると津軽の人びとに親しまれる料理です。けの汁は、小正月(1月16日)の朝、仏前に白粥とともに供えた精進料理で、その材料や作り方には、地域や家庭によって異なり、そこには、おがさま(おかあさん)たちの経験と工夫が込められています。多くは、だいこん、にんじん、ごぼうなどの根菜類と、ふき、わらび、ぜんまいなどの山菜類、それに油揚げ、豆腐、凍み豆腐などの大豆製品を、さいの目に細かく刻み、だしや昆布とともに大鍋で煮、味噌またはしょうゆで味付けをした、質朴ながら栄養豊かな保存食。この大鍋でつくるところがポイントで、「女正月」との別名がある小正月に、女性たちが家事から解放されてくつろいだり、実家に帰って骨休めをしたりするために、大量に作り置きした料理だったのです。これを何日も小鍋に取り分けて、温めて食べるのですが、日がたつほどに味がしみておいしくなっていきます。材料を細かく刻むのは、その昔、貴重品だった米に見立てたとの説があります。けの汁は、津軽地方だけではなく青森全県で作られており、またお隣の秋田県でも「きゃの汁」「きゃのっこ」と呼ばれる同様の料理があります。その昔は東北全域に広く分布していたのではないかといわれていますし、遠く離れた九州地方に「かいのこ汁」という、けの汁に酷似したお盆料理があることも興味深いことです。




参考文献・サイト
「日本の食生活全集 青森」編集委員会『聞き書 青森の食事』(社)農山漁村文化協会
ハイパープレス『県民性がわかるおもしろ食の大事典』青春出版社
青森県文化観光情報サイト http://apti.net.pref.aomori.jp/


←2006年12月号へ [ルーツ探訪]に戻る 2007年2月号へ→