ルーツ探訪 2006年
9月

★ 遠野街道
〔岩手県盛岡市〜釜石市〕


●遠野から三陸沿岸部へ伸びる3つの街道。それぞれに難所の峠あり。

 盛岡藩の三陸沿岸には、野田(九戸郡野田村)、宮古、大槌(上閉伊郡大槌町)に代官所が置かれ、その三要所と内陸を結ぶ街道が整備されてきました。盛岡城下から花巻市大迫町を通って、盛岡藩第二の城下町遠野へ。さらに、界木(さかいぎ)峠を越えて、大槌に至るルートは、中世にはすでに確立され、内陸部と沿岸を結ぶ交易の道として利用されてきました。幕末に入って釜石鉱山の開発が盛んになると、盛岡−遠野−釜石が幹線となり、「釜石街道」と呼ばれました。また、遠野を起点に沿岸部へと続く道としてもう一本、笛吹峠を越えて、鵜住居(うのすまい)に至る街道があります。これら遠野からの3つの道には、それぞれに界木、笛吹、仙人といった、難所として知られた峠がありました。
 なかでも、「仙人が住んでいた」「千人の金掘りが山崩れに遭い、一度に亡くなった」という伝説が、その名の由来となっている仙人峠は、東北の街道屈指の難所といわれています。標高887メートルの急な山坂、下りは正確に99回折れ曲がる九十九折(つづらおり)になっているのだとか。坂の中腹には、中仙人の茶屋跡があり、文化2(1805)年、釜石の豪商・佐野忠治が旅人の給水のためにと設けた、石の水槽が今も残っています。仙人峠の静寂の森には、数々の伝承がひそみ、“にっこりと笑う、髪を垂らした若い女”や“石を投げつける猿”などがいると、柳田国男の『遠野物語』は語ります。

●不思議な伝説、奇々怪々な妖怪たち…遠野の里で語り継がれてきた物語。

 遠野三山と呼ばれる早池峰山・六角牛山・石上山に囲まれた遠野盆地。一年中、観光客が引きも切らないこの町は、民俗研究の先駆となった名著『遠野物語』の舞台です。
『遠野物語』は、遠野市土淵町出身の佐々木喜善が、土地の古老から集めた民話や伝説を、柳田国男が聞き書き、編纂したもので、1910(明治43年)に発表されました。1935(昭和10)年には、増補版である『遠野物語拾遺』が発刊されています。そこに登場するのは、山男山女、山姥、座敷わらし、天狗、オシラサマ(養蚕の神様。遠野には娘と馬の悲しい恋物語がある)、神隠しといった異聞怪談。私たちを不思議の世界へと誘ってくれます。ところで、数ある妖怪のなかで、もっとも高い知名度と人気?を誇るものといえば、カッパなのではないでしょうか。遠野にも多くの伝説があり、特に土淵町の常堅寺の裏を流れる小川(その名もカッパ淵)には、カッパが多く住んでいて、人々を驚かし、いたずらをしたと伝えられています。なるほど、緑を映す穏やかな流れの底には、カッパが息を凝らしてひそんでいそうです。“つかまえてみたい”という人は、まず遠野市観光協会が発行する「カッパ捕獲許可証」を手に入れましょう。エサはもちろん新鮮なキュウリ。ちなみに、これまでも一攫千金を夢見て、多くの人が挑戦していますが、捕らえられたカッパはゼロだそうです。あしからず。




参考文献・サイト
渡辺信夫監修『東北の街道』(社)東北建設協会
藤原優太郎『東北の峠歩き』無明舎出版
岩手県高等学校教育研究会社会部会日本史部会 『岩手県の歴史散歩』山川出版社
遠野市観光協会 http://www.tonotv.com/members/kankoukyoukai/index.html


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