ルーツ探訪 2005年
11月

★ 乳頭温泉郷(にゅうとうおんせんきょう)
秋田県


●“日本最後の秘湯”の呼び声高く。深山にこんこんと湧く七湯、乳頭温泉郷。

 日本一の水深(423.4m)を誇る秋田県・田沢湖〈田沢湖については、当企画2003年10月号でもご紹介しています〉。吸い込まれそうに深いルリ色の水の底には、大きな龍となって沈んだという美女・辰子姫の伝説を秘めています。その北東、女性の乳房を思わせる優美な山容をみせる「乳頭山(烏帽子岳1478m)」の懐に、のんびりと湯煙をたなびかせるのが乳頭温泉郷です。鶴の湯、妙乃湯、大釜、蟹場(がにば)、孫六、黒湯、それに休暇村田沢湖高原をあわせて七湯。ブナの原生林を縫うように流れる先達川に沿って建つ、いずれも一軒宿からなる温泉郷は、“日本最後の秘湯”とも言われています。ここで、浴衣に着替えて、ぶらり乳頭温泉郷を巡ってみるといたしましょう。  
時代がかった茅葺きや杉皮葺きの建物が立ち並ぶ「黒湯温泉」は、山峡のひなびた味わいが満点。野趣たっぷりの露天風呂と打たせ湯が有名です。4つの泉質を誇り、山の薬湯として人気のある「孫六温泉」。中でも“石の湯”は、翌日の天気を予報する湯として知られ、青みを帯びて濁ると雨、透明だと晴れになることが多いのだとか。温泉が湧き出す沢にカニがたくさんいたことから名付けられたという「蟹場温泉」は、自然林のすがすがしい空気の中で入る露天風呂が人気。渓流の瀬音をBGMに、森林浴もいっしょに楽しめます。小学校の校舎を移築して山小屋風の旅館として利用している「大釜温泉」は、郷愁を誘うたたずまい。ヒバ造りの大きく深めの露天風呂と、それを十分に満たす湯量の多さが特筆されます。和風モダンの香りをただよわせる小粋な「妙乃湯温泉」は、温泉の色の特徴から名付けられた“金の湯”“銀の湯”2つの源泉が、あわせて7つの湯船に湛えられています。

●質朴な日本の原風景をそのままに残す、全国屈指の「秘湯の宿」。

 草木や自然石で縁取られた池のように広い露天風呂、満々たる乳白色のお湯、夜ともなればランプの灯りが湯煙を照らす…こんな情景をテレビや雑誌等でご覧になった方も多いのではないでしょうか。こんにちの秘湯ブームの火付け役になったともいわれる「鶴の湯温泉」です。乳頭温泉郷の中で、最も古い歴史を誇る当温泉は、長らく秋田藩主の湯治場としての役割を担っており、1638(寛永15)年には、二代目佐竹義隆公が訪れたと由来記にあります。350年前のたたずまいを今に伝える茅葺き屋根の「本陣」は、当時、警護に当たった武士が詰めたところなのだとか。一般の湯治客を受け入れるようになったのは江戸中期の元禄年間からで、泉質の異なる4種の湯が人々を癒してきました。今では、潤沢な湯の恵みに加え、古き良き日本の原風景・面影を色濃く残す湯の里として、多くの温泉ファンの心をとらえています。料理は、四季折々の山の幸を中心としたヘルシーなもので、とりわけ大和芋の団子とキノコなどを味噌仕立てにした「山の芋鍋」は、滋味にあふれる故郷の味と大好評です。



温泉INFORMATION

七湯すべてが異なる泉質と効能を持つ。すべての宿で立ち寄り入浴が可能。黒湯温泉のみ11月中旬〜4月中旬まで休業。車で東北自動車道・盛岡ICから国道46号で秋田方面へ、田沢湖町内に入って生保内交差点を右折、国道341号に入る。1qほどで右折、県道127号西山生保内線で乳頭温泉郷をめざす。公共交通機関はJR田沢湖駅下車、駅前から羽後交通バス乳頭線に乗車。高原温泉もしくは終点の乳頭温泉下車約45分。バス停からの道のりは各宿泊施設へ。問い合わせ: 田沢湖観光情報センター・フォレイクTEL0187-43-2111



参考文献・サイト
『車で行ける名湯秘湯 東北編』JAF出版社
松田忠徳『温泉教授の日本百名湯』光文社新書
『JTBの旅ノート Plus秘湯の宿』JTB
田沢湖町 http://www.town.tazawako.akita.jp/top.php
乳頭温泉郷 http://www.hana.or.jp/~nyuto/topindex.html


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