ルーツ探訪 2005年
9月

★ 鳴子温泉(なるこおんせん)
宮城県


●日本一の泉質数。湯の恵みに支えられて、東北屈指の温泉郷に。

 こんこんと湧く源泉数370本余り、そして日本にある11種の泉質のうち(旧泉質分類)、9種類がそろう「温泉のデパート」といわれるのが、鳴子温泉郷です。ここでは、アルカリ性の強い源泉のすぐそばで、酸性泉が湧出するなどの興味深い現象がみられ、湯の恵みを物語っています。鳴子、東鳴子、川渡(かわたび)、中山平(なかやまだいら)、鬼首(おにこうべ)、5つの温泉をあわせた一大温泉郷には、70軒以上の宿が建ち並び、豊富な湯量と多彩な泉質で、多くのファンを魅了し、湯治場としての歴史を刻んできました。  
なかでも鳴子温泉は、福島県の飯坂温泉、宮城県の秋保温泉とともに、奥州三名湯に数えられ、「街を歩けば下駄も鳴子」のキャッチフレーズの通り、浴衣と下駄履きでそぞろ歩きたい、温泉情緒あふれる町並みが続いています。開湯は9世紀前半、山の噴火により、現在の温泉神社あたりから湧出したとされ、熱湯がごう音をあげて噴出したことから、人々は「鳴郷の湯」と呼び、それが温泉名の由来になっていると伝えられています。一方、源義経が平泉へ落ち延びる途中、出羽の国で婦人・北の方が亀若丸を産み、この地で産湯につかわせたところ、初めてうぶ声をあげたことから「啼き子(なきこ)」と呼ばれ、それが転じて鳴子になったという伝承もあります。

●「温泉のデパート」をのんびり湯めぐり。土地っ子とのふれあいも楽し。

 温泉をめぐる楽しみのひとつに、共同浴場があります。地域の人々によって守り伝えられてきたコミュニティスペースは、まさに裸の社交場。地元のとっておきの話が聞けるかもしれません。温泉神社の御神湯として千年以上の歴史をたたえる「滝の湯」は、鳴子温泉郷の原点ともいえる浴場。平成元年には、総ひのき造りに建て替えられています。泉質は、酸性含明ばん−緑ばん−芒硝硫化水素泉で、高血圧・皮膚病・貧血などに効果があります。そして、JR鳴子温泉駅のほど近く、共同浴場らしからぬ?斬新な黄色の建物は「鳴子・早稲田桟敷湯」です。戦後間もない昭和23年、早稲田大学の学生が、ボーリングの実習の際に掘り当てたという温泉として知られています。平成10年には、同大学・石山研究室の設計で、現在の姿に全面改装。泉質は、含食塩−芒硝泉で、効能は高血圧・腰痛・神経痛などです。また、鳴子温泉には駅前をはじめ4カ所に足湯(いずれも無料)があり、気軽に浸かって旅の疲れを癒すことができます。  
 鳴子といえば、伝統こけしの故郷としても有名。「日本こけし館」では、個性豊かな東北各系統のこけしや、高松宮殿下秘蔵のコレクションが展示されているほか、絵付け体験(要予約)もできます。9月第一土曜・日曜には全国こけし祭りが町をあげて開催され、全国からやってくる愛好家がお目当ての工人が製作したこけしをめざして列をなします。(伝統こけしについては、当コーナー2003年2月号でもご紹介しています)。



温泉INFORMATION

泉質は、単純泉、重炭酸土類泉、重曹泉、食塩泉、硫酸塩泉、明ばん泉、鉄泉、硫黄泉、酸性泉の9種。疲労回復や筋肉痛はもちろん、リウマチ、糖尿病、傷の療養など、それぞれの湯が多彩な効能を持つ。立ち寄り入浴が可能なホテル・旅館も多い。車で東北自動車道・古川ICから国道47号へ、鳴子温泉までは約27q。公共交通機関はJR東北新幹線で古川駅下車、JR陸羽東線に乗り換え約50分、鳴子温泉駅下車。問い合わせ: 鳴子町観光農林課TEL0229-82-2026、鳴子町観光協会TEL0229-82-2102、鳴子観光・旅館案内センターTEL0229-83-3441



参考文献・サイト
松田忠徳『温泉教授の日本百名湯』光文社新書
鳴子町観光協会 http://www.naruko.gr.jp/
鳴子温泉旅館組合 http://www.naruko-onsen.jp/


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