ルーツ探訪 2005年
8月

★ 銀山温泉(ぎんざんおんせん)
山形県


●大正時代にタイムスリップ! 湯けむりのなかにたゆとう歴史浪漫。

 元禄2(1689)年3月(陽暦5月)、俳聖・松尾芭蕉は門人の曾良を伴い、東北・北陸を巡る旅に出ました。約2,400q、140日余りを費やした「おくのほそ道」行脚にあって、10泊11日という最も長い逗留をしたのが山形県尾花沢です。当地特産の最上紅花などを扱う豪商にして、芭蕉とは江戸で親交を結んだ俳人・鈴木清風らの歓待を受けたためで、その様子は「日比(ひごろ)とどめて、長途(ちょうど)のいたはり、さまざまにもてなし侍る」と記されています。芭蕉は「涼しさを我が宿にしてねまる也(お宅のお座敷の涼しきを我が家にいるような気安さで満喫し、ひざを崩してくつろいでいます。『ねまる』は尾花沢地方の方言)」、「まゆはきを俤(おもかげ)にして紅粉(べに)の花(このあたりに見られる紅粉の花は、女が化粧をするときに使う眉掃きを思わせるような咲きぶりである)」などの句を残しています。さて、尾花沢から東へ15q。こちらは大正時代のおもかげをくきやかに宿す温泉街が現れます。銀山温泉です。  
 1983年4月から放送されたNHKの連続テレビ小説「おしん」の舞台になってから、歴史ロマンの漂う温泉として全国区の人気を集めている銀山温泉。明治から大正にかけて建てられた木造3層、4層の旅館が、銀山川の清流をはさんで、ぎっしりと軒を連ね、時間の歯車が止まったかのような旅情豊かな町並みをつくっています。なるほど湯けむりに磨かれたような情緒と風格は、決して一朝一夕にはつくれないものです。夜ともなれば、ガス灯のほのかな灯りが石畳を照らし、湯上がり散歩を楽しむ観光客のゲタの音が響きます。

●坑夫たちの疲れを癒した温泉。銀脈は絶えても、お湯の恵みは枯れず。

 名前から連想される通り銀山温泉は、銀鉱山とともに発展してきました。この地に銀鉱が発見されたのは室町時代の康正2(1456)年。尾花沢が天領となった寛永年間(1624〜1642年)には最盛期を迎えます。2万5千人もの人夫で賑わった様子は「出羽の銀山、裸でいても金や宝は掘り次第」とうたわれました。この頃から、川沿いに湧出する源泉を利用し、坑夫たちが疲れを癒したといわれます。しかし、一時は日本三大銀山に数えられながらも、徐々に採鉱量が減少し、元禄2(1689)年までには全山が廃山されてしまいます。一方、お湯の恵みは絶えることなく、銀山は温泉地として盛んになっていくのです。  
 銀山温泉滞在中にぜひ巡ってみたいのが、所要時間約1時間の散策コース。温泉街の南、高さ22mから流れ落ちる「白銀の滝」から赤い欄干の「せことい橋」へ、続いて歌人・斎藤茂吉が“心洗われる美しさ”と歌を残している渓流「洗心峡」を眺め、夏でも涼風が吹き渡る「夏しらず坑」、静寂が満ちる「長者池」を経て、「銀鉱洞」(国指定史跡)へ。坑内は歩道や照明設備が整備され、浴衣姿で一巡することができます。心地よい疲労とともに宿に戻れば、温かな温泉と滋味あふれる郷土料理が待っています。



温泉INFORMATION

泉質は含食塩硫化水素高温泉、お湯は細かい湯花が混じった乳白色。効能は、浴用・・・慢性関節リウマチ、神経痛、生活習慣病、皮膚病、痔、婦人病など。飲用・・・便秘、貧血、糖尿病など。温泉街には13軒の旅館のほか、共同浴場、足湯(無料)がある。車で山形自動車道・山形北ICから国道13号、尾花沢で国道347号、続いて主要道29号に入る約46q。公共交通機関はJR山形新幹線・大石田駅下車、尾花沢市営バス銀山線乗車約40分。問い合わせ:尾花沢市商工観光課TEL0237-22-1111、尾花沢市商工会TEL0237-22-0128



参考文献・サイト
『車で行ける名湯秘湯 東北編』JAF出版社
『癒しの温泉宿百選 北海道・東北編』エクスメディア
尾花沢市 http://www.city.obanazawa.yamagata.jp/
尾花沢市商工会 http://www.shokokai-yamagata.or.jp/obanazawa/
銀山温泉組合 http://www.ginzanonsen.jp/


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