ルーツ探訪 2005年
5月

★ 日景温泉(ひかげおんせん)
秋田県大館市


●日本三大美林・天然の秋田杉が繁る森のなかに、湯けむりを漂わす。

 大館市から国道7号を北上し、青森との県境へ。日本三大美林のひとつ天然秋田杉が続く矢立峠に至ります。ここは、かつて秋田と津軽藩を結んだ羽州街道、その最大の難所といわれたところ。下内川を右岸に左岸にと続くつづれ折の悪路は、多くの旅人を嘆かせてきました。道路が快適に整備された今日、樹齢300年を超える秋田杉だけが往時を知っているようです。その深い緑の香りのなかで湯けむりをあげるのが、秋田を代表する名湯・日景温泉。旅館へと続く沿道は桜並木に縁取られ、毎年5月上旬には北国の桜花爛漫が迎えてくれます。  
 明治21(1888)年の福島・磐梯山大噴火の影響により湧いたといわれる日景温泉は、明治26年、大館地方の自由民権運動家でもあった日景弁吉氏によって開かれました。増改築を重ねた20棟近くが、迷路のような廊下でつながる一軒宿。訪れる多くの人が「懐かしい」と口を揃えますが、なるほど、古き良き昭和初期をほうふつとさせる趣が漂っています。丸い胴体の郵便ポスト、欄干がめぐらされた秋田杉の旧館、薪ストーブ、卓球台・・・ここには温泉だけではない、ほっと心和む暖かさがあります。一方、どっしりとした風格を醸し出しているのが、総ヒバづくりの浴場棟。明るい日差しがたっぷりと差し込む湯殿は、天井が高く、縦横に組まれた太い梁が見事。洗い場には十和田石が敷き詰められていますが、湯花が付着し、元の色をうかがい知ることはできません。そのわけは、「東北の草津」とまで呼ばれる濃い泉質にあるようです。

●良質の湯につかる「温泉浴」と杉林での「森林浴」のダブル効果。

 硫黄の香りを放つ緑白色のお湯は、「三日一廻り(みっかひとまわり)の湯」と呼ばれてきました。つまり3日で目に見える効果があるということなのです。通常、湯治は7日、10日で一廻りといわれますから、その効能の高さがわかります。源泉かけ流しのぬるみのある湯は、特にアトピーなどの慢性皮膚病に効く! との評判が高く、全国からの湯治客が途切れることはありません。浴槽は、寝湯用の浅いものもあり、ぬるめの温度も手伝って、いつまでも寝そべって入っていられそうです。そして、良質の湯とともに楽しみなのが郷土色豊かな食事。きりたんぽ鍋やしょっつる鍋、イノシシ鍋、じゅんさい、とんぶり、山菜など・・・飾らない秋田の味わいを堪能することができます。  
 日景温泉周辺は、前述の羽州街道が「矢立遊歩道」として整備されています。ここはかつて菅江真澄、伊能忠敬、吉田松陰らが通った歴史の道。津軽藩主の江戸参勤への道でもありました。いにしえに思いを馳せながら、ゆっくりと散策すれば、心身の疲労回復を促すといわれる杉林での森林浴がかないます。「温泉浴」と「森林浴」、二重の効果がじんわりと体に効いてくるようです。



温泉INFORMATION

泉質は、含硫黄−ナトリウム−カルシウム−マグネシウム−塩化物泉(硫化水素型)。効能は、慢性皮膚病、心臓弁膜症、リューマチ、神経痛、糖尿病、ほか。お風呂は内湯(男女各2)、露天風呂(混浴1)、立ち寄り入浴も可。アクセスは、車なら東北自動車道・碇ヶ関I.Cから国道7号経由で約10q。公共交通機関は、JR奥羽本線陣場駅から送迎バス約5分(要予約)。問い合わせ:日景温泉0186-51-2011、大館市観光物産課0186-49-3111戟A大館市観光案内所0186-42-4360



参考文献・サイト
JTBの旅ノート Plus秘湯の宿 /JTB
全国お湯で選んだ“源泉”の宿/松田忠徳 弘済出版社
北東北日帰り温泉/山と渓谷社


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