ルーツ探訪 2005年
2月

★ 姥湯温泉(うばゆおんせん)
山形県米沢市


●開湯470年余り。渓谷にこんこんと湧く湯を守り継いできた一軒宿。

 秘湯ブームの昨今、多くの温泉地や宿が熱く語られていますが、豪快で野趣あふれる“野天風呂”で多くのファンを魅了しているのが、「姥湯温泉」です。山形と福島の県境、西吾妻連峰に位置し、標高は1250m、山形で最も高いところにある温泉です。まず秘境へのイントロダクションは、その道程から始まります。国道13号から山道へ入り、車1台分の幅員しかない曲がりくねった道をさらに山奥へ。少し前までは、スイッチバックの箇所もあるデコボコの険しい道として知られていたようですが、現在ではほぼ舗装されています。少しの心もとなさと、まさに秘湯を求めてやってきたという期待感、否が応でも気持ちは高まります。駐車場から吊り橋を渡って、歩くこと10分弱。山腹にへばりつくように建つ山小屋風の宿を見るとき、「はるばるやってきた」という感慨に打たれます。  
 姥湯温泉の開湯はたいへん古く室町時代後期の天文2(1533)年の頃とされています。金鉱を求めて吾妻山中に足を踏み入れた、姥湯温泉一軒宿の枡形屋旅館の先祖が、山姥に湯の出る場所を教えてもらったのが由来とされており、以来、17代目の現館主に至るまで、滔々と湧く仙境の湯を、脈々と受け継いできたのだといいます。宿の裏手にある赤茶けたガレ場には、6本の噴出口があり、ふつふつと源泉が湧き出していますが、使用しているのは1本のみ。あとは川に流れ落ちるにまかせているというもので、慢性的な湯量不足に悩む温泉地が多い昨今、なんともぜいたくな恵みです。

●大自然と一体化したかのような露天風呂。秘境度の高さはバツグン。

 宿に着いたお客さんが、荷を解く間もなく目指すのが露天風呂。そそり立つ絶壁に囲まれた渓谷に現れる巨大な露天風呂、自然岩を穿ってつくられた湯船にたたえられているのは白濁した硫黄泉です。獅子岩、姥岩、虎岩、白象岩、観音岩と名付けられた奇岩怪石を望みながらの湯浴みは、まさに心身が野に放たれる開放感でいっぱい。「これこそ秘湯だ!」驚きの、感嘆の、満足のため息が湯の中に溶けていきます。岩肌を縫うように彩っている緑は、ブナやダケカンバ、コメツガなどの原生林。新緑や紅葉の季節ともなれば、値千金の眺望。岩の間には時折愛らしい来訪者――カモシカの姿が見られることもあるといいます。
 露天風呂は混浴が2つ、女性専用が1つ。一番大きな混浴露天風呂は、女性専用タイムも設けられています(18時からなので、宿泊者のみ)。また、日中の日帰り入浴も可能ですが、人気の秘湯故、休日などはたいへん混雑するので、覚悟を。宿泊者には、地元米沢で採れた素材をつかった料理も好評。ジューシーな米沢牛の陶板焼はもはや名物。自然美に心奪われる眼福、美味しさに舌鼓を打つ口福、そして湯に身をゆだねる至福・・・たくさんの「福」を心ゆくまで味わいたい雲上の温泉です。



温泉INFORMATION

泉質は含硫化水素酸性緑ばん泉(硫黄泉)。効能は、高血圧症、動脈硬化症、慢性婦人病、慢性皮膚病、糖尿病、胃腸病、関節痛など。宿は枡形屋旅館の1軒のみ。冬期(11月上旬〜4月下旬)は休業になる。米沢には他にも、小野川、白布、新高湯、湯の沢、五色、滑川、太平など、いずれ劣らぬ秘湯がある。
アクセスは、車なら東北自動車道・福島飯坂ICから国道13号、県道232号を経て約32q。公共交通機関は、JR奥羽本線(山形線)・峠駅下車。宿まで送迎あり(要予約)。
問い合わせ:米沢観光物産協会TEL0238-21-6226



参考文献・サイト
お湯で選んだ“源泉”の宿/松田忠徳 弘済出版社
車で行ける名湯秘湯 東北編/JAF出版社
日帰りガイド山形の温泉/無明舎出版編
(社)米沢観光物産協会 http://www8.ocn.ne.jp/~yozan/

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