ルーツ探訪 2005年
1月

★ 二岐温泉(ふたまたおんせん)
福島県岩瀬郡天栄村


●平家の隠れ里伝説とともに、深山で静かな時を刻んできた秘湯。

 那須連峰の北端、ブナやナラの原生林が生い茂る二岐山。その懐に抱かれる渓谷の底で、ひっそりと湯煙を漂わせる二岐温泉。緑の樹海に囲まれる南会津の秘湯には、そのひそやかさにふさわしく平家の落人(おちうど)伝説が横たわっています。その伝承のもととなっているのが御鍋神社。平将門(?−940年)が戦いに敗れた後、妻とその一族が命からがら逃れ、この地で再起を決意し、朝廷から賜った鼎(かなえ=鉄のかま、権威のしるし)を御神体として神社を祀ったと言い伝えられています。御鍋神社の境内にあるサワラは、“森の巨人たち100選”福島県緑の文化財に指定される見事な樹。樹齢520年、幹周4m、樹高38m、空に向かってすっくと立っています。
 さて、二岐温泉の開湯はたいへんに古く平安中期と伝えられ、病床にあった嵯峨天皇(786-842)年の快復を祈り、はるばる京都から薬湯を探しにきた使者が発見したといわれています。江戸時代には南会津の“隠し湯”とされ、ここへの一般人の通行は禁じられていたといいます。湯の恩恵にあずかったのは大名クラスに限られていたそうですから、自由に入湯できるこんにち、温泉好きには幸運な時代といえるのかもしれませんね。



●原生林に縁取られる渓流沿いに露天風呂。森林浴もいっしょに楽しむ。

 二俣川沿いには30数本もの泉源があり、そのすべてが発見当時から変わらぬ自然湧出です。ボーリングに頼らなくても潤沢な湯に恵まれるとは、温泉王国・日本にあっても、たいへん珍しいケースといえます。そして、二岐温泉らしい光景といえば、渓流沿いに設けられた露天風呂。イワナやヤマメの魚影が踊る川のせせらぎに耳を傾け、森林が放つ清新な空気を吸いながらの湯浴みは、いっときすべての世事を忘れさせてくれるほど。注意を促す「川に入らないでください」の立て札は、自然に身をゆだねて、無邪気な心持ちになる人がいかに多いかを教えてくれます。
 温泉の効果は、温泉水によるものだけ、と思っていませんか。もうひとつ、滞在地周辺の自然環境が身体によい影響を与えてくれる「転地効果」も見逃せません。空気や景色、太陽光など、日常とは異なる自然の刺激を受けて、神経系と内分泌系の働きが活発になり、心身ともにリフレッシュされ、元気になっていくというものです。その転地効果があらわれるのに必要な期間ですが、4〜5日から10日くらいでもっとも顕著になり、3週間を過ぎると身体が新しい環境に慣れてしまうといわれています。温泉の効果を期待するなら、駆け足の旅行ではなく、ゆったりとした日程で訪れたいものです。



温泉INFORMATION

泉質はカルシウム・硫酸塩泉。効能は、動脈硬化症、切り傷、やけど、慢性皮膚病、神経痛、婦人病、リューマチなど。宿は7軒。天栄村には、他にも岩瀬湯本温泉、天栄温泉、羽鳥湖温泉などがある。
アクセスは、車なら東北自動車道・須賀川ICから国道118号線経由で約55q。公共交通機関は、JR東北本線・須賀川駅から二岐温泉行きバスで約2時間、終点下車。またJR東北新幹線・新白河駅間を送迎バスで結ぶ旅館もある(要予約)。
問い合わせ:天栄村観光協会(役場産業課内)TEL0248-82-2117、天栄村観光協会情報センターTEL0248-85-2222



参考文献・サイト
温泉教授の日本百名湯/松田忠徳 光文社新書
車で行ける名湯秘湯 東北編/JAF出版社
天栄村観光協会 http://www.ten-ei.net/index.html

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