ルーツ探訪 2004年
12月

★ 大祇祭(黒川能)
山形県櫛引町黒川/当屋、春日神社


●500年間連綿と。氏子たちによって守られ伝えられてきた民俗芸能。

 昭和51(1976)年、国の重要無形民俗文化財に指定された「黒川能」は、櫛引町黒川の鎮守春日神社の神事能として、すべて氏子たちの手により、500年もの間、連綿と伝えられてきた民俗芸能です。その由来は、後小松天皇の第三皇子小川親王が伝えた、また京の役者がもたらしたなど、はっきりとしませんが、室町時代の末に伝承されたものがそのまま脈々と受け継がれ、明治になって現在のような上演形態ができあがったとされています。黒川能は、世阿弥(ぜあみ)が大成した後の猿楽能の流れを汲んでいるため、こんにちの五流(観世・宝生・金春・金剛・喜多)と同系ですが、いずれの流儀にも属さず、独特の形と中央ではすたれてしまった古い演目や演式を残している点が希少です。能役者は囃子方を含めて子どもから長老まで約160人、能面230点、能装束400点、演目数は能540番、狂言50番というように民俗芸能としては他には見られない大きな規模を誇っています。
 黒川能は春日神社の例祭に神事として奉納されますが、なかでも旧正月に行われる「大祇祭(おうぎさい)」が最も重要とされています。通常、祭りとして“黒川能”と呼び習わす場合は、この大祇祭を示すことが多いようです。そして、能舞台となるのは、当屋と呼ばれる民家なのです。



●夜を徹して神に奉納。揺らめく灯りに浮かび上がる幽玄の世界。

 現在、春日神社の氏子は約240戸。上座と下座、2つの能座に分かれ、毎年、それぞれから一軒ずつ当屋(神宿となる家)が選ばれます。当屋の主人“頭人(とうにん)”は、神社から「出雲守(いずものかみ)」など国司(くにつかさ)の称号を与えられるなど、一生に一度の大役となります。
 さて、2月1日の未明、春日神社の御神体が宿る2つの大祇様が、上下両座の当屋に向かいます。大祇様は2メートルもある3本の杉を扇型に結び、先端に紙垂(しで)をつけたもの。白布がまかれ、大切に安置されたあとは、座衆一堂に会して古式ゆかしく点呼をとる「座狩り(ざがり)」が行われ、次年の当屋頭人が承認されます。酒や豆腐料理の振る舞いのあと、夕刻から稚児が勤める「大地踏(だいちふみ)」で黒川能の幕が開きます。式三番、続いて能五番、狂言四番が、大ろうそくの灯りの下、夜を徹して演じられます。
 朝を迎えると、若い衆に抱えられた御神体は、春日神社に還ります。神前では両座が脇能を一番ずつ演じ、その後、大地踏、式三番が両座立ち合いで奉納されます。2日目のもうひとつの見どころは、尋常と呼ばれる競争ごと。いち早く大祇様を安置する「朝尋常」から始まり、「棚上がり」「餅切り」「布はぎ」といった競り合いが威勢よく行われ、興奮さめやらぬまま祭りは終了します。



お祭りINFORMATION

●毎年2月1、2日開催。王祇祭は、観能の申し込みが多く寄せられるため、やむなく抽選となっている。受付期間は4月1日から11月30日まで。また、3月、5月、11月の例祭において、春日神社の能舞台で奉納されるほか、7月の羽黒山花祭、8月の荘内神社例大祭、2月蝋燭能(春日神社)、7月水焔の能(櫛引町総合運動公園)などでも演じられる。いずれも早めの確認を。なお、ホームページからも観能の申し込みができる。http://www.town.kushibiki.yamagata.jp/dento/kurokawa/
 問い合わせ:黒川能保存会0235-57-5310、
櫛引町役場企画課0235-57-2115



参考文献・サイト
東北お祭り紀行/重森洋志 無明舎出版
祭りを旅するD東北・北海道編 日之出出版
庄内の祭りと年中行事 無明舎出版
民俗芸能入門/西角井正大 文研出版
山形県櫛引町 http://www.town.kushibiki.yamagata.jp

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