ルーツ探訪 2004年
9月

★ 鹿の角切り
宮城県牡鹿町 金華山・黄金山神社


●天平文化を支えた黄金の山。三年続けての参拝で一生分の金運ご利益が?! 

 南三陸金華山国定公園の南端に位置する牡鹿半島。そこから東南約1kmの海上に浮か ぶ金華山は、周囲26km、標高445mの花崗岩からなる島。出羽三山、恐山とともに奥州三大霊場とされ、長らく禁漁禁伐であったため、今でも手つかずの自然が色濃く残されています。 “金華山の原生林と鹿”は、環境省の「かおり風景100選」に輝いています。 古くは万葉集のなかで大伴家持に“すめろきの 御代栄えむと あづまなる みちのくの山に くがね(黄金)花咲く”(天皇陛下の御代が栄えるであろうといって、そのめでたいしるしとして東国の陸奥の国の山に黄金の花が咲いた)と詠われ、松尾芭蕉の「奥の細道」にも記されている金華山は、その名にふさわしい黄金伝説に縁取られています。
 奈良時代の天平年間(729-749年)は、仏像や寺院などが盛んにつくられ、華やかな独自の文化を築き上げましたが、それを担ったのが、みちのくから大量に献納された黄金です。 この史実にちなみ、金銀財宝を司る金山毘古神(かなやまひこのかみ)、金山毘賣神(かなやまひめのかみ)を祀ったのが金華山黄金山神社(こがねやまじんじゃ)の縁起です。「金運の神」にふさわしく、三年続けてお参りすれば一生お金に困らない、というなんともうれしい謂われがあります。



●十字投げ縄の勢子VS血気盛んな牡鹿。さて軍配はどちらの手に・・・。

 金華山には「神の使い」とされ、たいせつに保護されている野鹿が、全島に約450頭生息しているといわれます。 神社付近をテリトリーとする鹿は120頭、そのうち40〜50頭がオスの鹿といわれています。 牡鹿の角は春先に落ちると、すぐに新しいものが生えはじめます。柔らかくうぶ毛で覆われた「ふくろ角」はやがて、ぐんぐん伸び、秋口には硬く鋭利なものになります。 この頃がちょうど恋の季節。参詣客に危害が加えられることのないようにと、1963(昭和38)年から始められたのが角切りの行事です。
 さて当日、角切り場に入ってきた牡鹿はどれもが立派な角の持ち主。 迎え撃つのは、社紋入りの印半纏(しるしばんてん)に地下足袋、鉢巻姿も凛々しい勢子(せこ)たちです。 赤い三角旗のついた棒で鹿を追い立てる一方、十字投げ縄を手に鹿を待ち受けます。 この十字投げ縄は、先端のループ状になっているところに、十文字の木製器具をとりつけたもので、顔をめがけて投げつけると十字がはずれ、角をとらえるような仕組みになっています。 こんなところにも神鹿をむやみに傷つけないようにとの知恵が込められています。 勢子のなかには素手で格闘する猛者もいて、観客の歓声はひときわ高くなります。 捕らえられた鹿にはお神酒を差し上げてから、神官の手により角が切り落とされます。 この角切り神事、国内ではここ黄金山神社と春日大社(奈良県)だけで行われる珍しいものです。



お祭りINFORMATION

●毎年10月第1、第2日曜日に開催。
2004年は10月3日(日)、11日(祝)。 島内の鹿山公園に角切り場、鹿収容所、観覧席などが設けられ、一日2回行われる。 ちなみに切られた角は、お守りとして売られるという。
問い合わせ:
牡鹿町観光協会:0225-45-3456
黄金山神社:0225-45-2301



参考文献・サイト
東北お祭り紀行/重森洋志 無明舎出版
牡鹿町 http://www8.ocn.ne.jp/~oshika/
黄金山神社 http://www.koganeyama.jp/


←2004年8月号へ [ルーツ探訪]に戻る 2004年10月号へ→