鬼剣舞(おにけんばい)〜北上みちのく芸能まつり
岩手県北上市ほか
●みちのくの大地を踏みしずめ、祖霊をなぐさめる念仏供養の踊り。
鬼剣舞と書いてオニケンバイ。マイがなまってバイになった・・・というわけではありません。
さまざまな謂われと歴史に縁取られる鬼剣舞は、北上市周辺を中心に、県下でみられる民俗芸能です。
馬の毛や鳥の羽などでつくったカブリモノを頭に、いかつい鬼の面をつけ、扇子や抜き身の刀を振りかざし、ハァーッ、ウォーッと雄叫びを発して、力強く大地を踏みしめ躍りあがる・・・勇壮にして華麗、迫力満点の躍動感!
鬼剣舞のケンバイとは、修験道の呪法のひとつで、地面をしっかと踏みつけて悪霊を鎮める「反閇(へんばい)」に由来するといわれています。
最も古い縁起としては、大宝年間(701-704年)に修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)が満願の日に踊ったものが伝わったとされています。
そうした“反閇”に浄土信仰の念仏踊りが結びついて、江戸時代初期までには、現在にみられるような芸能が完成したようです。
また、安倍一族や源義経など、中央権力に追われ、無念の死を遂げた武者の霊を鎮めるために踊られた、さらには翻って平安初期、朝廷軍率いる坂上田村麻呂に捕らえられた蝦夷の首長・アテルイを慰めるために始められたという説も各地に残されています。
●角がないのは仏の化身だから。手に汗にぎる高度な技で観客を魅了。
よく見れば、鬼剣舞の鬼たちには、角(つの)がありません。これは仏が明王の姿として現れたものだと考えられているからです。
踊り手は白・青・赤・黒4色の面をつけた鬼が2匹ずつ。この4色は陰陽五行説により四季と方位を表しています。
それに道化面のカッカタを交えて、仏教の如来の化身である五大明王となります。
ご紹介すれば、白面・・・秋、西、大威徳明王、青面・・・春、東、降三世明王、赤面・・・夏、南、軍荼利明王、黒面・・・冬、北、金剛夜叉明王、そしてカッカタは不動明王にあたります。
演目は、各流派によって多少の違いはありますが、全部で18種前後あり、そのうち実際に演じられるのは12、3の曲目です。
基本は8人による舞い、人数の制約から解かれ少人数で自由闊達に踊られるのは「狂い
」、さらには宙返りなどのアクロバチックな曲芸も繰り広げられます。
岩手県内には120を超える伝承団体があり、なかでも岩崎鬼剣舞保存会、滑田鬼剣舞保存会、朴ノ沢念仏剣舞保存会、川西念仏剣舞保存会の4保持団体によるものは、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
そもそもは正月やお盆に寺や神社、新盆の家や墓などで祖霊をなぐさめるために踊られてきた鬼剣舞。
現在では、「北上みちのく芸能まつり」でその全演目を見ることができます。
クライマックスは、迫力満点の大群舞。鬼たちの凛々たる舞いが、みちのくの短い夏に弾けます。
お祭りINFORMATION
●毎年8月7,8,9日
市内各所に設けられたお祭り会場にて開催。鬼剣舞をはじめ、「鹿踊り(ししおどり)」や「神楽」「田植え踊り」など、東北各地に伝承される民俗芸能が、110を超える団体により披露される。
最終日には350年の伝統をもつ「トロッコ(灯ろう)流し」、1万発の花火が北上川を幻想的に照らす。
問い合わせ:北上観光協会0197-65-0300
参考文献・サイト
東北お祭り紀行/重森洋志 無明舎出版
わがみちのく郷土芸能/粒針 修 錦正社
北上観光協会 http://www.kitakami.ne.jp/~ksa