ルーツ探訪 2004年
4月

★ 久渡寺(くどじ)のオシラ講
護国山久渡寺/青森県弘前市


●北国の暮らしに生きる信仰、不思議な屋敷神・オシラサマ。

 このお祭りの主役は“オシラサマ”。 オシラサマは北海道の一部と東北各地にみられる民間の信仰で、男女一対の人形を御神体とする “家神様(いえがみさま)”です。 そのほとんどは直径2〜3センチの細い棒(桑の木が多い、他に竹、杉、ひのきなど)でできており、頭部には馬や女性の顔が彫られてあったり、墨で描かれてあったりします。 これにオセンダクと呼ばれる端切れを着物として被せますが、地方によって頭からすっぽりとおおったものと、頭を出したものとがあり、学問的に前者を包頭型、後者を貫頭型と呼んで区別しています。 包頭型のうち、金襴緞子のきらびやかな衣装をまとったオシラサマを、広まった場所にちなんで久渡寺型と称しています。
 オシラサマは、柳田国男の「遠野物語」で養蚕の神として紹介されて以来、民俗学的な調査や研究が進みましたが、地域によっては眼病を治す神、または火伏せの神、さらには農神、漁神として祀られるなど、実にさまざまな呼称と信仰形態があることが明らかになっています。 岩手県種市町からは「大永五年」(1525年)と、室町時代後期の年号が記されたオシラサマが見つかっており、起源はもっとさかのぼるのではないかと推測されています。



●“オシラサマを遊ばせる”お祭りは、国の無形民俗文化財に。

 オシラサマを祀る家では、年に1回、もしくは2〜3回「オシラ遊ばせ」と呼びならわされる祭祀をおこないます。 これは、供物を捧げ、文字通り女性たちや子どもがオシラサマといっしょに遊ぶものです。 地域によってはイタコ(東北地方に固有の、目の不自由な巫女)を呼び、ご祈祷をお願いします。こうしてオシラ遊ばせは、長らく各家の主婦によって執り行われてきましたが、明治時代に入り、最寄りの大きな神社にオシラサマを集めて、共同で供養することが増えてきました。 その代表的なものが、青森県弘前市にある久渡寺の大白羅講(おしらこう)大祭です。
 前述の通り、久渡寺に集まるオシラサマは豪華絢爛。 「我が家のオシラサマがいちばん!」と競い合う気持ちが華美傾向に拍車をかけているようです。大白羅講大祭は、僧侶によるオシラ供養祭に始まります。 護摩が焚かれ、読経が響くなか、参拝者は1年の祈願を書き込んだ護摩木を燃えさかる炎の中に投げ込みます。 次に、イタコによるオシラ祭文の奉唱と続きます。 「昔は祭りの前日から寺に泊り込み、夜通し踊り、楽しんだ」と懐かしむ老婦もいて、ここにも時代の移り変わりがしのばれます。 北国の厳しい暮らしのなかに息づく独特の信仰習俗は、1999(平成11)年、国の「記録作成等の措置を講ずるべき無形民俗文化財」に指定されています。



お祭りINFORMATION

5月15日前夜祭、16日大祭。
大白羅講護摩祈祷は11時、18時。ただし16日目は11時のみ。
久渡寺は津軽三十三観音の第一札所、本尊は慈覚大師の作と伝えられる聖観音像。
江戸時代に津軽真言宗五山となる。
久渡寺周辺の丘陵は「こどもの森」として整備されており、ビジターセンター・キャン
プ場・登山道もある。

問い合わせ:護国山久渡寺 0172-88-1555



参考文献・サイト
イタコとオシラサマ/加藤 敬 学研
祭り−ふるさと東日本/高橋秀雄 そうよう
東北お祭り紀行/重森洋志 無明舎出版


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