ルーツ探訪 2003年
12月

★ 日本一の強酸性温泉、1ケ所からの温泉湧出量日本一
玉川温泉(秋田県田沢湖町)


●塩酸が主成分! さまざまな効能から全国に知られる山深き湯治場。

癒しの時代にぴったりな温泉ブームが続いています。世に特徴のある温泉は数あれど、pH1.2という酸性度を誇る温泉は「玉川」をおいて他にありません。大噴(おおぶけ)と呼ばれる噴出口から勢いよく湧き出すのは、世界でもめずらしい塩酸を主成分とした98℃のお湯。毎分9000リットル(ドラム缶45本分)という湧出量も、堂々の日本一です。
 十和田八幡平国立公園の南西、焼山(やけやま)のふところに広がる玉川温泉は、ブナの原生林に立つ一軒宿。今からおよそ1200年前の噴火活動により誕生したといわれています。江戸時代の初め、鹿が傷を癒しているのを見て発見されますが、温泉としてではなく、主に硫黄(いおう)の採掘場として開発されてきた歴史があります。明治に入って、そのさまざまな効能から“療養の温泉”として注目を集めるようになり、湯治場として営業を開始します。しばらくは発見のいわれから「鹿湯」と呼ばれていましたが、昭和の初め「玉川温泉」と改称。しかし、馬に乗るか徒歩で丸一日かけてやっとたどり着く山深い温泉地だったため、玉川温泉の卓効は、多くの人には届きませんでした。1900年も半ばになって国道が開通し、現在の活況へとつながっていきます。1996(平成8)年には大規模な新増築によって、700名の収容が可能となりましたが、なかなか予約が取れない宿としても有名です。



●温泉+豊かな自然+のんびりゆっくりストレス解消で、心身ともに健康に。

 玉川温泉には、ここだけにしか見られない特徴がいくつかあります。まず客室には、温泉宿の定番ともいえるテレビ、冷蔵庫、エアコンなどの電化製品が備え付けられていません。理由は、空気中の酸性濃度が高く、金属類が腐食しやすいから。また、宿周辺の自然道を散策すれば、毛布やゴザにくるまって寝そべる人の姿が・・・。これも玉川特有の「岩盤浴」です。小さな噴気口から発せられる地熱がポカポカと体を芯から暖め、新陳代謝を促進させるのだそうです。まわりに散在する岩石や土砂、泥などに含まれる微量の放射性物質が、患部にある種の働きかけをするのだという説もあります。
 国内では玉川温泉だけにしかない、国指定の特別天然記念物「北投石(ほくとうせき)」は、源泉の成分が長い年月をかけて結晶化(バリウムと鉛の硫酸塩鉱物)したもので、バリウムイオンがラジウムイオンと置き換わるため、微量の放射能を持っています。台湾の北投温泉で採集されたものと同じ特徴を持っていたため、この名が付きました。
 さて、温泉の効能著しいということは、身体に与える影響も大きいということ。実際、源泉100%の湯船に入ると全身がピリピリするほどで、入りすぎは湯あたりや湯ただれのもとになります。そのため徐々に体をならしながら、無理せずゆっくりと静養することが、玉川温泉の約束事になっています。豊かな自然のもとで、時間を忘れてのんびりと・・・日ごろのストレスを解消するのも、湯治のたいせつな目的です。



参考文献・サイト
秘湯・玉川温泉/無明舎出版編
ふるさとの文化遺産郷土資料事典5秋田県/人文社
玉川温泉オリジナルサイト http://www.hana.or.jp/~tamagawa/

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