ルーツ探訪 2003年
11月

★ 日本初の地熱発電所
松川地熱発電所(岩手県岩手郡松尾村)


●太陽・風・地熱・・・地球のエネルギーが、電気の未来を支えます。

 初雪の便りが届く時節になりました。冬支度はもうお済みになりましたか。 とはいえ、暖房の準備ひとつとってみても、薪や炭を大量に確保しなければならなかった時代と比べて、支度というほどの気負いは必要ないのかもしれませんね。 その便利で快適な暖かさを支えるものに「電気」の存在があります。 しかし今や、エネルギー問題の解決なくして、電気の未来を語ることはできません。 石油や石炭、天然ガスといったエネルギー資源は限りあるものであり、いつかは枯渇してしまいます。 また、それらを大量に消費することによって二酸化炭素などが発生し、地球温暖化の原因となることも心配されます。 環境保護とエネルギーの安定供給といった観点から、化石燃料に替わる「新エネルギー」の開発と活用が待たれているのです。
 新エネルギーとは、「風力発電」「太陽光発電」「地熱発電」「水力発電(水路式で1000kW以下のもの)」「バイオマス」などをいい、2003(平成15)年4月に施行された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」により、電力会社は一定量以上の新エネルギー等による電気の利用を義務づけられました。



●温泉開発転じて、地熱発電へ。松尾村村長の先見の明が灯したあかり。

 新エネルギーのひとつに掲げられる「地熱発電」のあかりは、1966(昭和41)年、岩手県松尾村に灯りました。1952(昭和27)年、松尾村では新しい温泉開発に期待を込め、ボーリング(掘削)が行われていました。しかし掘っても掘っても、めざす温泉は出ず、大量の蒸気が吹き上がるのみ。その状況をみた当時の村長沼田宗一氏は、地熱エネルギーの利用による発電の可能性に思い至ります。村長は、電気を専門的に学んだ識者でもあったのです。調査開発は困難を極めましたが、着手してから10年後の1966年、わが国初、世界でも5番目の地熱発電所(開発企業:日本重化学工業梶jが完成しました。松川地熱発電所は35年以上経て、今なお現役で23,500キロワットの出力を誇っています。
 地球内部に貯えられている高温の蒸気や熱水を地表に導き出し、蒸気タービンを駆動させて電気を起こす地熱発電は、再生可能な純国産のエネルギーであり、地球環境に悪影響を及ぼす物質をほとんど排出しないといった優れた特徴をもっています。一方で、資源のあるところにしか開発できない、他電源と比べて発電規模が小さい、さらに発電コストが高い(火力発電のほぼ2倍)といった短所があります。現在国内には、北海道1、東北7、関東1、九州9の計18地点で20の発電プラントが稼働しており、50万キロワット超の電気を生みだしていますが、これは総発電電力量の0.4%にしかすぎません。地熱という豊富でクリーンな地球エネルギーをもっと上手に活用するための研究・開発がのぞまれています。



参考文献・サイト
ふるさとの文化遺産郷土資料事典3岩手県/人文社
電気学会大学講座発電工学/吉川榮和ほか著 電気学会
財団法人新エネルギー財団 http://www.nef.or.jp/
岩手県松尾村 http://www.matsuomura.jp/

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