ルーツ探訪 2003年
9月

★ 日本一のいも煮会
山形市馬見ケ崎河川敷(山形県)


●「うちの味がいちばん!」お国ぶりがあらわれる、いも煮会レシピ

 9月。東北地方のスーパーやコンビニエンスストアの店先には、山と積まれた「薪」や「炭」がおめみえします。それをみた旅行者「早いですね、もう薪ストーブの準備ですか?」。いえいえ、これは"いも煮会"用の燃料。店のドアには「いも煮会用の鍋、材料あります」の文字も見えます。
 「いも煮会」とは、青空の下、家族や友人が河原(地方によっては山や浜辺)に集まって、鍋料理をつくり、お酒を酌み交わす東北地方の秋の風物詩。「いも煮」というと里いもの煮っころがしをイメージされる方も多いかと思いますが、実際には豚汁に近い料理で、鍋の中身は地域によって異なります。共通する材料は里いも、ねぎ、こんにゃく、きのこ類といった山の幸。それにプラスして、山形県では牛肉を入れ、味付けはしょうゆ油で、お隣の宮城県では牛肉ではなく豚肉を使い、みそ仕立てにします。福島県では、山形流、宮城流が半々ぐらい。「鍋っこ」とも呼ぶ秋田県では、とり肉が用いられますが、味付けはしょうゆ派、みそ派に分かれます。岩手県では、川ガニでダシをとり、最後にカニみそをいれてコクを出すのだとか。しかし、牛肉+しょうゆが主流の山形でも、養豚が盛んな庄内地方は豚肉+味噌味、置賜地方は大根・人参をたっぷりと甘めのしょうゆ味に・・・というように、地方の数だけレシピがあるともいわれ、東北の豊かな食文化をかいま見ることができます。



●何もかもがケタはずれ。山形自慢の食材で、3万人のいも煮をつくる。

 さて、このいも煮会、実は歴史あるアウトドア料理なのです。江戸時代のはじめ、最上川舟運(しゅううん)の終点として賑わっていた山形市中山町では、船頭たちが荷下ろしを待つあいだ、退屈しのぎに河原で野宴を張っていました。そこで食べられていたのが、地元産の里いもと積み荷の棒ダラを煮た鍋料理。これがいも煮会のルーツといわれています。大正時代までには、実際に船頭たちが鍋をかけた"鍋掛松(なべかけまつ)"が残っていたといいます。また一説では、新米でついた餅と新いもでつくったいも煮を食べて、田の神に感謝する刈り上げ行事(旧暦10月1日に行われる農耕儀礼)の名残ともいわれています。
 いも煮会発祥の地・山形市で、毎年9月第1日曜日に行われるのが「日本一のいも煮会フェスティバル」。材料は、水6トン、里いも3トン、山形牛肉1.2トン、こんにゃく3500枚、ネギ3500本、地酒50升、しょうゆ700リットル、砂糖200キロ(!)。6メートルの大鍋とショベルカーのお玉、6トンの薪でつくられるいも煮はなんと3万食。この日から、東北各地では本格的なシーズンに突入し、「いも煮会しましたか?」という会話が交わされるようになります。最近では、レジャー施設などで、道具や材料が用意されている"手ぶら"プランが提供され、いも煮会ファン(?)の裾野を広げています。



参考文献・サイト
日本一のいも煮会フェスティバル http://www.kankou.yamagata.yamagata.jp/
山形のうまいもの/山形県農産物マーケティング推進協議会

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