ルーツ探訪 2003年
8月

★ 日本で初めて世界遺産に登録
白神山地(青森県・秋田県)


●世界最大級のブナの原生林は、命そだてる"母なる森"

 夏山シーズン真っ盛りですね。日本に高嶺、秀峰は数あれど、世界遺産の山ともなれば、「白神山地」をおいて他にありません。白神山地は、青森県南西部から秋田北西部にまたがる面積約13万ヘクタールの山地帯の総称で、そのうち、原生的なブナ林で占められる1万6,971ヘクタールが、1993(平成5)年、屋久島、姫路城、法隆寺とともに日本で初めて世界遺産(自然遺産)に登録されました。
 標高1000〜1200メートル級の山々が連なる白神山地、その特筆すべきは、世界的にも例をみないといわれる広大なブナの原生林です。約9000年前の縄文時代に誕生したブナの森は、今も絶妙なバランスの上にたつ貴重な生態系を保っています。たとえば、植物は53種の高山植物を含めて500種以上、そのうち24種の北限となっています。昆虫は2300種以上生息するといわれていますが、未知の種も多く、一帯は"遺伝子のプール"と呼ばれているほどです。また、ツキノワグマ、カモシカ、ニホンザル、イヌワシ、クマゲラなどの希少な動物も多く棲み、"森林博物館"とでも呼びたい多様性を持っています。ブナの森は、さまざまな動植物の宝庫であるだけではなく、巨大な天然ダムとしての水源涵養機能や地表浸食防止機能などを果たしており、環境保全の視点からも大きな注目を浴びています。



●国境なき世界遺産。人類共通の宝物を、未来へ伝え継ぐ

 1972年の第17回ユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」、通称「世界遺産条約」とは、普遍的な価値を持つ、すぐれた文化財や自然環境を、特定の国や民族のものとしてではなく、人類共通の宝物として、未来へと守り伝えていこうとするものです。2003年7月現在、世界129カ国、754カ所(自然遺産149、文化遺産582、複合遺産23)が登録されています。ほんの一例を挙げれば、自然遺産では、アメリカ合衆国「グランド・キャニオン国立公園」、オーストラリア「グレート・バリア・リーフ」、タンザニア「セレンゲティ国立公園」、文化遺産では、中国の「万里の長城」、カンボジアの「アンコール遺跡」、フランスの「ヴェルサイユ宮殿」、エジプトの「ピラミッド地帯」など、複合遺産はペルーの「マチュピチュ」、オーストラリアの「ウルル(通称エアーズロック)」があります。日本においては、白神山地、屋久島の自然遺産のほか、姫路城、法隆寺地域の仏教建造物群、古都京都の文化財、白川郷・五箇山の合掌造り集落、原爆ドーム、厳島神社、古都奈良の文化財、日光の神社群、琉球王国のグスク遺跡群の計11カ所が登録されています。
 世界遺産に国境という概念はありません。自然の美しさや素晴らしさを多くの人と分かち合うことで、地球環境の大切さを知る。そして異なる文化に触れ、その歴史や背景を学ぶことで、理解を深め合う――世界遺産は"世界平和"へとつながっているのです。



参考文献・サイト
青森県自然保護課 http://www.pref.aomori.jp/sirakami/
ルポ・東北の山と森/山を考えるジャーナリストの会編 緑風出版
(社)日本ユネスコ協会連盟 http://www.unesco.jp/
TBS世界遺産 http://www.tbs.co.jp/heritage/

←2003年7月号へ [ルーツ探訪]に戻る 2003年9月号へ→