ルーツ探訪 2003年
5月

★ 近海ホンマグロ水揚げ量日本一
宮城県塩釜市


● 日本人の嗜好の変化につれて、トロは"ネコまたぎ"から超高級食材へ。

 日本三景松島の玄関口・宮城県塩釜市は、生の近海ホンマグロ(クロマグロ)の水揚げ量日本一! そんな土地柄を反映してか、1平方qあたりの寿司店の数も日本一なのだとか。ホンマグロの大群が三陸の金華山沖を北上する5月〜8月は夏漁期にあたり、"海のダイヤ"が魚市場を賑わします。
 寿司店では「マグロなしでは商売にならない」そうですが、このように持てはやされるようになるのは、つい最近のこと。古くから食用にされていたことは、貝塚などの調査によって明らかで、日本最大級の縄文集落跡(今から5500〜4000年前)青森県・三内丸山遺跡からも骨が発掘されています。しかし、長らく保存の技術がなかったため、赤身で鮮度が落ちやすかったマグロは下魚の扱いでした。赤身をしょう油に漬け込んだ「ヅケ」が江戸前寿司のネタとして使われ始めるのは、天保年間(1830〜1843)。しかし「トロ」は食べられていなかったようで、市場では猫もそっぽを向く"ネコまたぎ"と呼ばれ、捨て値で手に入る部位でした。ですから昭和初期、トロがお金のない学生たちに食べられ始めたという話にもうなずけます。高級魚の仲間入りをするのは戦後。特に食生活の欧米化から脂が好まれるようになった昭和30年代以降、トロといえば贅沢な食材の代名詞となりました。



● 健康効果に大きな期待!海の王者マグロの栄養をいただきましょう!

 マグロは丸々とした紡錘形で、いかにも泳ぐのに適しているような姿をしています。それもそのはず、生まれてから死ぬまで(眠っている時ですら)止まることなく泳ぎ続けるといいます。そのスピードは、ホンマグロの場合、通常60km/h程度、身の危険を感じたときには160km/hにも達します。大きいもので体長3m、体重400kgに達する巨体と、そうした驚異的な運動量を維持するためには常にエサを食べなくてはならず、カツオを2、3本丸飲みしたかと思うと、すぐ次のエサに飛びつく大食漢ぶりです。
 世界中で年間150万トン獲れるマグロのうち、日本人は約70万トンを消費しています。いちばん人気はもちろんホンマグロですが、次いで美味とされるのがミナミマグロ(インドマグロ)。脂が強いのが特徴で、冷凍技術の発達で身近な魚となりました。目がパッチリしているところから名がついたメバチは、色持ちが良いため寿司ネタとしてポピュラーです。あっさりと上品な味わいの赤身をもつキハダは、関西で人気のマグロ。そしてビンナガは、ツナ缶の原料に使われます。マグロには、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸が多く含まれ、生活習慣病の予防をはじめとするたくさんの健康効果が報告されています。脳や目の働きをアップさせる栄養素ともいわれ、老人性痴呆症や記憶・学習機能の向上にも効果が期待されているそうです。ヒット曲のフレーズ「♪さかなを食べると♪頭が良くなる」は本当なんですね。


参考文献・サイト
魚たちの風土記/植条則夫 毎日新聞社
マグロは時速160キロで泳ぐ/中村幸昭 PHP研究所
塩釜市魚市場買受人協同組合 http://www.chuokai-miyagi.or.jp/~kaiuke/

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