ルーツ探訪 2003年
4月

★ 日本最古のソメイヨシノ
青森県弘前市/弘前公園


● わずか9種から育種によって300種以上へ。日本人は大の桜好き。

 春は桜。日本には、約340種の桜があるといわれています。名前がつけられていないものを含めれば、数は倍ぐらいにふくらむのだそうです。しかし、もともと日本に自生するのはわずかに9種。つまりほとんどが栽培品種(総称してサトザクラと呼ばれます)というわけです。なかには秋や冬咲きの品種、淡い黄色や緑色の花もあるそうで、さすが日本の国花、長い歴史のなかで注がれてきた情熱と愛情の分だけ、奥深い世界が広がっているようです。
 そして今や桜の名所の約8割を占め、気象庁が出す開花宣言の指標となっているのがソメイヨシノです。ソメイヨシノは、オオシマザクラとエドヒガンの交雑種。江戸時代末期、染井村(現東京都豊島区駒込)の植木屋が売り出したといわれ、当初は桜の名所、奈良の吉野山にちなんでヨシノザクラと称していたそうです。今でいうブランド戦略でしょうか。しかし、吉野山にあるのはヤマザクラの類であり、誤解を避けるためにソメイヨシノと改められたそうです。大きめの花が、葉に先立ってたくさん付くソメイヨシノは、華やかで見栄えがします。しかも成長が早く10年も経てば立派に花を付けることから好まれ、またたく間に広まりましたが、寿命は50〜60年と他の品種に比べて短命でした。ちなみに日本最古といわれる桜は、山梨県の実相寺にある「山高神代桜」(樹種エドヒガンザクラ、国指定天然記念物)で、樹齢は2000年ともいわれています。



● りんごの栽培方法をお手本に、常識をくつがえす桜の管理に挑戦。

 吉野山(奈良県)、高遠城址公園(長野県)と並んで、桜の三大名所とされるのが青森県の弘前公園です。ここには10万石津軽藩の天守閣や櫓(やぐら)、城門などが残され、国の重要文化財に指定されています。弘前公園の桜は、正徳5(1715)年、津軽藩士が京都からカスミザクラなどの苗木を持ち込み、城内に植えたのが始まりとされています。明治15(1882)年、荒廃する城を見かねた旧藩士が、当時流行していたソメイヨシノを1000本植樹しました。しかし前述の通り、ソメイヨシノは寿命が短い品種。ここ弘前公園でも樹勢が衰え始めた昭和20年代後半から、本格的な保護管理が行われるようになります。その方法たるや、古くから伝わる園芸の常識「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」をくつがえし、病気の枝をせん定するといった大胆なものでした。当時、非難を浴びたこの方法は、弘前地方名産のりんご栽培をお手本にしたもの。実は、桜もりんごも同じバラ科、果たして枯死寸前たった桜はみるみる蘇っていったのです。こうして今も樹齢120年を越える老木が、若木に負けず元気にあでやかな花を咲かせています。その中には幹まわり515pの日本一太いソメイヨシノも。4月下旬から5月初めにかけて咲く約5000本の花の競演は、大切に守り育ててきた花守たちの熱意のたまものです。
◆弘前公園
 毎年開催される「弘前さくらまつり」は、4月23日から5月5日まで。期間中は全国から訪れた約200万人が、見事な群桜に酔いしれる。
問い合わせ:弘前市観光館 TEL0172−37−5501


参考文献

新桜の精神史/牧野和春 中公叢書
図説花と樹の大事典/木村陽二郎監修 植物文化研究会+雅麗編集 柏書房
花歳時記大百科/北隆館
みちのく夢ネット http://www.michinoku-yume.net/

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