ルーツ探訪 2003年
2月

★ 日本一大きいこけし(197cm、130kg)、日本一高価なこけし(純金製1億円)
青森県黒石市/津軽こけし館


● みちのくの自然と風土に磨かれた、温もりあふれる素朴美が魅力「伝統こけし」

 寒い日が続きます。身も心も凍ってしまいそうな時は、あったかい温泉につかって、のんびりするのが一番! もしあなたが東北地方の温泉地へ出掛けたならば、おみやげ屋さんの店先で愛らしい「伝統こけし」(以下こけし)の歓迎を受けることでしょう。人気が高く、熱心な蒐集の的になり、時に研究の対象ともなるこけしは、郷土玩具の王者といわれています。
 こけしがなぜ東北地方にのみ発生したか、については諸説ありますが、古くから行われていた「湯治(とうじ)」という風習に深く関係するのではないかといわれています。湯治とは、農民が秋の収穫後などに、鍋釜持参で近郷の温泉へ骨休めに行く習わし。実際、こけしの三大発生産地とされる土湯、遠刈田、鳴子はいずれも湯治場として賑わっていました。これらの温泉地は、山間部に位置していたため原材料となる森林資源に事欠かなかったこと、また、轆轤(ろくろ)を回して、挽き物を作る木地師(きじし)がいた、などの要因が重なって、こけしは湯治客のみやげ物として商われるようになったと考えられています。木地玩具のひとつだったこけしに一大転機が訪れるのは、大正から昭和にかけて。情味あふれる面差し、心和む素朴な姿形に、言い知れぬ「美」を見いだす人々が現れます。長い間、子どもの遊び相手だったこけしは、大人が蒐集し、鑑賞する郷土玩具としての役割を与えられ、美術品として愛でられるようになるのです。
 さて、一見際立った差異のないように見えるこけしですが、そのフォルムや表情、胴模様は決して一様ではありません。地域毎に言葉(方言)や自然環境、風習などが異なるように、その土地だけの個性や特徴をもつこけしが生まれ育まれてきました。こうして師から子弟へ代々継承されてきたこけしは、土湯、弥治郎、遠刈田、蔵王、作並、山形、鳴子、肘折、木地山、南部、津軽の11系統に分けられます。もちろんコレクターは、ひとめでどの系統に属するかを見分けることができるのだそうです。



● 威風堂々たる大きさ、そして黄金色の輝き。どちらも一見の価値、あり!

 11系統の趣を心ゆくまで楽しめるのが、青森県黒石市にある「津軽こけし館」。 館内には、津軽系を代表する工人・故盛秀太郎の木地に棟方志功が描彩した貴重な作品のほか、4000本ものこけしが展示されています。 なかでも、ひときわ目を引くのが高さ6尺5寸(197cm)、重さ130kgのジャンボこけし。 原木に220kgの栓(せん)の木を使い、工人の村元文雄さんが1年3カ月を費やして完成させた力作です。 一方、燦然と金色の光を放つのが、ふるさと創生資金の1億円で製作された、高さ50cm、重さ58kgの純金のこけし。 純銀のこけしとペアで飾られた様子は、まばゆいばかり。 直接手で触れることもできるそうですから、黄金の輝きに"あやかりたい"方はぜひどうぞ。


参考文献

伝統こけしとみちのくの旅/小野洸、柴田長吉郎、箕輪新一  講談社
宮城伝統こけし/柴田長吉郎  理工学社

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