ルーツ探訪 2002年
6月

★ サッカー


● パブリック・スクールで生まれた"手を使わない"近代サッカー

 人はボールを目の前にしたら、手にとって投げたり、足で蹴ったりしてみたくなるもの。紀元前5世紀頃の古代ギリシアのレリーフには、足でボール遊びをしている様子が刻まれており、古今東西、実にさまざまなボールゲームが行われてきました。日本でも、12世紀頃から宮廷の貴族の間で楽しまれていた「蹴鞠(けまり)」があります。中世ヨーロッパの代表的なボールゲームとしては、イングランドの「フットボール」、フランスの「スール」などが挙げられます。いずれも古くからの決まり事だけをもとに行われるもので、参加者の数も試合時間も、場所の範囲さえも制限がありませんでした。全員がただ1つのボールを奪い合うゲームは乱闘になることも多く、死者や負傷者がたえなかったため、たびたび禁止令が出されるほどでした。一方、ルネサンス期のイタリアで行われていた「カルチョ(現在でもサッカーの呼び名に使用)」は、ボールを手で扱えこそすれ、グラウンドの範囲が定められ、ルールやポジションの役割も簡単に決められていました。そのため、カルチョこそが近代サッカーのルーツだと唱える人もいます。
 18世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパ各地の慣習的なボールゲームが衰退するなか、依然として"荒っぽい"伝統を守り続けていたのが、イングランドのパブリック・スクール(私立の名門私立中等学校)でした。しかし次第に、これまでのような乱暴なゲームではなく、はっきりとしたルールに基づき、人格形成に役立つような「スポーツ」をめざすようになります。そして、1863年いくつかのパブリック・スクールの卒業生が中心となって、フットボール協会を設立、協会式の統一ルールが定められます。近代サッカーの誕生です。ちなみにこの時、手を使うことを禁ずる新ルールに反対したラグビー校の代表者は、1871年にラグビー・フットボール連盟を結成し、ここでサッカーとラグビーは別のスポーツとして歩み始めるのです。
 1860年代末にもなると、サッカーは地域や社会階層をこえて、イングランド全域に普及します。1870年代には、早くもヨーロッパ全域へ、やがてラテン・アメリカやアジア、アフリカへと広まっていくのです。



● 日本にサッカーが伝わって130年目、世界の祭典ワールドカップの舞台に

 日本にサッカーがやってきたのは、近代サッカーの統一ルールがつくられてからわずか10年後の1873(明治6)年。海軍兵学寮の教官として招かれたイギリス人将校ダグラス少佐が、航海術や海軍一般教養を教えるかたわら、サッカーを紹介したといわれています。1899(明治32)年には、日本人だけのサッカーチームが発足。1921(大正10)年、大日本蹴球協会が設立され、その8年後には国際サッカー連盟(FIFA)に加盟しました。1936(昭和11)年のベルリンオリンピックでは、1回戦で優勝候補のスウェーデンを破り、その活躍ぶりは「ベルリンの奇跡」と称えられました。1964(昭和39)年の東京オリンピックでは、強豪アルゼンチンを破り、ベスト8入りを成し遂げ、続いて1968(昭和43)年メキシコオリンピックでは銅メダルというアジアサッカー史上最高の成績を残します。
 しかしその後は、アジア予選も勝ち抜けない低迷期が続きましたが、1993(平成5)年の日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)開幕により、日本サッカー界は大きく変革。1993(平成5)年の「ドーハの悲劇」を乗り越え、1998(平成10)年ワールドカップ・フランス本大会に初出場、そして今年、アジアで最初のワールドカップを韓国と共に開催します。



Key Word Column

ワールドカップ

 1930(昭和5)年、わずか13の国を集め、南アメリカの小国ウルグアイで開催されたワールドカップ。今や一競技の世界選手権というレベルを超えて、オリンピックをもしのぐ人類の祭典になっています。1998(平成10)年、第16回フランス大会のフランスVSブラジルの決勝戦は、テレビを通じて15億もの人が観戦しました。世界中の4人に1人が同じプレーを見て固唾をのみ、歓声をあげ、ため息をつき、拍手をおくったのです。地球上で最も多くの人に愛されるサッカーは、「世界の言葉」とよばれるにふさわしいスポーツといえます。さて、ワールドカップこれまでの16大会中、開催国が優勝したのは、第1回のウルグアイ、第2回のイタリア、第8回のイングランド、第10回の西ドイツ、第11回のアルゼンチン、そして第16回のフランスの計6回です。われらがニッポンもぜひ優勝を・・・志と声援は高く!いきましょう。

参考資料
サッカーの歴史/アルフレッド・ヴァール著   大住良之訳 創元社
(財)日本サッカー協会    www.jfa.or.jp
Jリーグ公式サイト      www.j-league.or.jp

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