ルーツ探訪 2001年
10月
Q  教えて下さい。

 試験やスポーツなどの、ここぞ!という勝負時に、私たちはよく「えんぎ」をかついだりしますが、そもそも縁起って何のことですか? (北海道 招き猫さん)


A  お答えします。

●仏教語がルーツ 社寺の効能がやがて"ありがたい"縁起物に

 勝ち続けている間は、ヒゲをそらない、ユニフォームを替えないなど、ゲンをかつぐスポーツ選手の話をよく見聞きします。この"ゲン"とは縁起のこと。おめでたい席でのスピーチでよく使われる「本日はお日柄もよく・・・」の"お日柄"も、その日の縁起の良し悪しをいっています。婚礼などの慶事でしたら、多くの人は大安吉日に行うでしょうし、一方で、友引には葬儀を出さないといった習慣が根強く残っています。
 そもそも「縁起」とは、仏教の最も基本的な考えのひとつである「因縁生起」に由来します。これは、この世のすべての事柄は、その事柄を引き起こす「縁」によって「起」こるという思想をあらわしています。原因や条件を追求し、説明しようという意味が転じて、平安の頃から、神社や仏閣、仏像などの由来や沿革を述べたものをさすようになりました。江戸時代になると、社寺のいわれや効能を書き記した文章「えんぎもの」が、庶民の間にも広く出回るようになります。そのえんぎものの普及に大きく貢献したのが、「えんぎかつぎ」と呼ばれる人たち。えんぎものには貴いことが書いてあるので、下に置かずに大切に肩にかついだのだ、といいます。えんぎをかついでふれ回ったのは、神主さんや、諸国を旅するお坊さんでした。そのうち、霊験を説いた文章ではなく、そのなかに出てくる「物」のほうが注目されるようになり、それにちなんだ玩具(猿、虎、狐をかたどったもの)などが作られるようになりました。現在、私たちが縁起を祝って飾ったり、買い求めたりするいわゆる「えんぎもの」や「お守り」の誕生です。やがて「縁起」という言葉は、幸・不幸のきざし、吉凶の前兆といった意味で使われるようにもなっていきます。



●縁起かつぎは、心のビタミン剤。いっぱいかついでハッピーに

 かつて縁起かつぎやまじないは、暮らしのなかで欠かせないものでした。暦のお日柄や吉凶禁忌をみて行動し、健康を保つためのまじないをし、不幸にも病気にかかった時は、平癒の願かけをしました。科学的な知識や技術に乏しかった時代には、縁起かつぎなどによって不安を取り除き、幸せを願ったのです。
 今でも、昔から伝えられてきたもの、地域に特有のもの、さらには個人的に信じたり行ったりしているものまで、私たちはたくさんの縁起に囲まれています。時代を経てもなお伝承されるものであるならば、それは「民俗文化」としてとらえることもできるでしょう。たとえ迷信にすぎない、科学的根拠に乏しい(あるいは、ない)とわかっていても、なにかとかつぎたくなるのが縁起の不思議。ならば、よい縁起をかついで、毎日の暮らしの潤滑油にしていきたいものですね。



ことわざdeなるほど
 人生の知恵や処世のための教訓を言い表したことわざのなかには、縁起かつぎといってよいものも多く見受けられます。今回は「ことわざde縁起かつぎ」。いくつかご紹介していきましょう。一日の始まりは、一杯の温かなお茶でスタート。なんといっても「朝茶はその日の難のがれ」です。さらに吉兆のしるしである「茶柱」が立てば言うことなしですね。食べるなら「初物七十五日」。旬に先がけて出回る初物を食べると、七十五日寿命が延びるといいます。そういえば、人のうわさも「七十五日」でしたね。結婚するなら一つ年上の姉さん女房「一つまさりの女房は、金のわらじで探しても持て」ですよ。そして夢をみるなら「一富士、二鷹、三なすび」。縁起がよい順序です。とりわけ新年の初夢にみるとよいのだとか。さて、こうした縁起かつぎは「鰯の頭も信心から=どんなに粗末でつまらないものでも、信仰の対象となればありがたく思われること」ですが、縁起かつぎでちょっとした気分転換や心癒しができるのであれば、まさに願ったり叶ったりではないでしょうか。


参考資料
開運!えんぎ読本(神崎宣武 編著)/チクマ秀版社
縁起をプラスにかつごう(大峡儷三著)/学陽書房
岩波ことわざ辞典/岩波書店

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