ルーツ探訪
2001年
5月
Q  教えて下さい。

 前の日に入れたお茶の葉を、次の日にまた使う「宵越しの茶」は、体によくないときいたことがあります。これってほんとう?(福島県 佐藤茶さん)


A  お答えします。

●飲まずに越したことはない、宵越しのお茶。

 ♪夏も近づく八十八夜(はちじゅうはちや)・・・あれに見えるは茶摘みじゃないか・・・♪と唄われるように、立春の日から数えて八十八日目にあたる八十八夜から、茶摘みは最盛期を迎えます。昔から “初物”や“走り”にこだわってきた日本人にとっては、心躍る「新茶」の季節の到来です。とりわけ八十八夜に摘まれた一番茶は、長生きをする、中風(ちゅうふう)を防ぐともいわれ、珍重されてきました。しかし、これらの伝承はあながちまちがいでもなく、一番茶に限らず、緑茶にはすぐれた健康成分が含まれていることが、最近の研究でわかってきました。
 緑茶の効能についてお話しする前に、ご質問にお答えしましょう。宵越しの銭(ぜに)を持たないのは江戸っ子の気っ風の良さでしたが、あまり飲まないほうがよいとされるのは「宵越しのお茶」。これはひと晩中放っておくと腐敗することがあるという戒めのほかに、宵越しのお茶は渋みが多く、胃によくないという注意を促したもののようです。この渋み成分はタンニン。普通に入れたお茶のタンニン量であれば、胃腸の粘膜を保護し、働きを活発にしますが、宵越しのお茶はタンニンが濃縮されて残っており、胃の弱い人は粘膜を刺激され、炎症を起こしかねません。もちろん、傷まないようにきちんと保存し、しかるべき濃さに薄めて飲めば問題はないのでしょうが、お茶本来の味わいのこととなれば、話は別です。



●緑茶−カテキンを飲んで、勝て病気に!

 さて、胃の粘膜を荒らす悪玉にしてしまったタンニンですが、緑茶のすぐれた健康成分「カテキン」は、実はタンニンの一部なのです。緑茶には解毒作用があり、食中毒を防ぐことが古くから知られていましたが、それはカテキンの働きによるもの。最近では、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、さらに病原性大腸菌O−157などにも殺菌効果を発揮するという報告があります。カテキンの語源「勝て菌に」の通り、悪い菌をやっつける強いパワーを持っているようです。
 また、緑茶をよく飲む静岡県のお茶どころでは、胃ガンの死亡率が全国平均の5分の1だという調査があるなど、カテキンには発ガン抑制作用があるのではないかといわれています。2年前、科学誌「ネイチャー」にもガン抑制の詳しいメカニズムが発表されて話題となりました。また、カテキンが持つ抗酸化作用は、体の酸化を防ぎ、老化や生活習慣病の予防が期待できるとされています。
 ちなみに日本茶、紅茶、中国茶ともに、同じ品種の木の葉からつくらますが、製造法の違いによって、有効成分が異なってきます。茶葉を発酵させずにつくる日本茶にはカテキンが豊富に含まれています。まさに世界に誇るジャパニーズ・ハーブですね。




ことわざdeなるほど
 お茶を飲むのはよいことだとする考えは、ことわざのなかにも見受けられます。「朝茶はその日の難逃れ(なんのがれ)=朝、お茶を飲めば、その日一日のさまざまな災難から逃れることができる」からはじまり、「朝茶は縁がよい」「朝茶は七里戻っても飲め」「朝茶は福が増す」など、特に朝茶への評価が高いようです。
 「茶番=底の見えすいた、ばかげた行為や物事」「へそが茶を沸かす=あきれるほどにばかばかしく滑稽なこと」「茶化す(ちゃかす)=まじめな人や発言などに対して、ひやかしたり、からかったりする」などからは、いつの時代もお茶が暮らしに身近なものであったことがうかがえます。また、筋道の立たないことを表す「むちゃ(無茶)」は、仏教語「むさ(無作)=無為という意」から転じたといわれています。めちゃ、めちゃくちゃ、めちゃめちゃ、むちゃくちゃ・・・いまでもよく使われる言葉ですが、すべてに「茶」の字が当てられています。
 さて、このルーツ探訪のコーナーも、今回が通算18回目。新鮮みのない「二番煎じ」にならないように、がんばりたいと思います。


参考資料
年中行事事典/三省堂
暮らしの伝承(蒲田春樹著)/朱鷺書房
日本を楽しむ暮らしの歳時記春/平凡社
暮らしのことば語源辞典/講談社
岩波ことわざ辞典/岩波書店


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