ルーツ探訪
2001年
2月
Q  教えて下さい。

 バレンタインデーに女性から男性へチョコレートを贈るのは、日本だけだと聞いたことがあります。本当ですか?(青森県 牧野さん)


A  お答えします。

●聖バレンタインにちなんだ愛の日。

 愛や感謝の心とともに、贈りものをする日として世界的に知られているバレンタインデーは、3世紀のローマに実在した人物に由来します。その頃のローマ帝国では、兵力増強のために結婚禁止令が布かれていましたが、この政策に抵抗し、ひそかに恋人たちを結婚させていたローマ司教がいました。それがのちに愛の守護神として敬愛されることになる聖・バレンティヌスであり、2月14日は彼が殉教した日なのです。また、ヨーロッパではこの日、春にさきがけて小鳥が愛の歌をうたい始める日とされていたことが結びついて「愛の日」となりました。
 欧米では、夫婦や恋人同士がカードやプレゼントを交換したりしますが、日本では、女性が意中の男性にチョコレートを贈り、愛を告白する日とされています。このわが国独特の習慣をつくったのは、実は日本の製菓会社だったのです。



●仕掛け人は、菓子メーカー。

 日本でバレンタインデーが始まったのは1950年代後半のこと。デパートが中心となって、とくに品物を限定せずに「愛する人に贈りものをする」バレンタインセールをはじめました。しかし、これは一般に普及することはありませんでした。しばらくして、いくつかの菓子メーカーが「愛する人にチョコレートを贈る日」としてPRしはじめます。それがどんどん広がり、1970年代以降は女性から男性へチョコレートを贈る日としてすっかり定着します。最近では、友だちや会社の同僚・上司などへ贈る「義理チョコ」もあらわれて、この日いちにち盛大にチョコレートのやりとりが行われます。でも、これは日本だけに見られる光景。もちろんバレンタインデーの「お返し」をする3月14日のホワイトデーも日本独自のものです。
 チョコレートの原料・カカオ豆にはさまざまな栄養成分が含まれていますが、最近とくに注目をあびているのが「ポリフェノール」という物質です。緑茶や赤ワインなどにも含まれるポリフェノールは、身体を酸化、さびつかせる活性酸素を除去する働きがあります。活性酸素はそもそも身体にとって必要なものですが、ストレスや喫煙、アルコールのとりすぎなどによって増えすぎると、動脈硬化やがん、糖尿病などを引き起こす原因となってしまうのです。また、最近の研究でカカオのポリフェノールは、胃がんや胃潰瘍の原因となるピロリ菌を抑制する効果があることも明らかになりました。こうして考えると、日本のバレンタインデーは「愛」だけではなく、「健康」も贈ることになるのですね。




ことわざdeなるほど
 さてバレンタインデー。チョコレートを渡そうか、やっぱりやめようかドキドキ。でも「案ずるよりも産むがやすし」の言葉の通り、物事は初めに心配したより、実際に行ってみるとたやすくできるものです。「惚れて通えば千里も一里」〜強い愛情を抱く相手の所へ行くのであれば、はるかかなたであろうとも遠く感じないということ。とにかく恋のパワーは絶大です。
そして思いが叶ってめでたくカップル誕生。「縁は異なもの味なもの」〜男女の結びつきは常識では判断できない妙なもの、珍しいものです。そして「合縁奇縁(あいえんきえん)」とは、人と人との付き合いや結びつきには、お互いの気心があうかどうかが問題であるが、それもみな世の中の不思議な巡り合わせによるものだということを説いています。これはそもそも仏教語で「愛縁機縁」と書き、“愛の縁(えにし)があれば愛し、その機会は巡り合わせによるものだ”ということを意味しました。


参考資料
民俗学がわかる事典 新谷尚紀編著/日本実業出版社
365日の冠婚葬祭とマナー/主婦の友生活シリーズ
岩波ことわざ辞典/岩波書店


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