ルーツ探訪
2000年
12月
Q  教えて下さい。

 お祝いやお中元・お歳暮など、改まった金品の贈りものには、「水引(みずひき)」や「熨斗(のし)」がつきものですが、これにはどんな意味があるのでしょうか。(宮城県 荒木さん)


A  お答えします。

●結ぶことで、けがれをはらう水引。

 水引(みずひき)は、贈りものを包んだ紙にかける飾りひものこと。祝いごとには、紅白・金銀などが、おくやみごとには黒白、銀一色、黄白などが使われ、濃いほうの色が必ず右にくるように結ばれます。また本数についても、慶事は奇数、弔事は偶数という決まりがあります。
 贈りものに水引をかける習慣は、いつ頃からはじまったのでしょうか。一説には、奈良時代、中国からの到来品に赤いひもが結んであったことから、わが国でもまねるようになった、というものがあります。また、古くは神へ供える酒や食べ物に、けがれを祓う結界(けっかい=神聖な領域として定めること)として、わらや縄を結ぶ習わしがあり、これが水引のルーツなのではないかという説もあります。水引には、けがれていないものを贈るという意味、そして物事の成就を“結ぶ”という願いが込められているようです。
 水引の結び方は、大きく2つの種類に分けられます。ひとつは、「結びきり」「真結び」と呼ばれる、一度結んだらほどけない結び方。おくやみや病気見舞い、慶事では結婚のように二度と繰り返してほしくないことに使われます。一方「蝶結び」は、ほどくことのできるもので、出産や長寿のお祝いなど、何度でも繰り返してよい一般的な祝いごとにつかわれます。



●海の幸「あわび」が起源、熨斗。

 熨斗(のし)は、進物などに添える、色紙などでつくった飾りもののこと。その名は「のしあわび」に由来し、昔は実際にあわびの肉をうすく引きのばして、干したものが使われていました。のしあわびを添えることで、海の幸を贈ったという意味を持たせたのです。これはハレの日に酒とともに海産物(生ぐさもの)を献上した古くからのならわしが、形を変えて残ったものといわれています。現在市販されている祝儀袋などの熨斗をよく見てみると、のしあわびに見立てたものを包んでいるのがわかります。
 “生ぐさもの”をあらわす熨斗は、弔事の場合はつけないのがきまりです。また、たとえ慶事であっても、贈りものの中身が生もの(肉や魚、かつお節を含む)の場合はつけないのが正式です。

ことわざdeなるほど
 さまざまな人生の折り目・節目を、ともに喜び悲しむ冠婚葬祭。相手を思いやる気持ちをあらわし、結ばれた縁を大切にしていく習わしは、日本の長い歴史のなかで育まれてきたものです。

袖すり合うも多生(たしょう)の縁

 通りすがりに見知らぬ人と袖がすり合う・・・そんなささいな事でも偶然に起きたわけではなく、前世からの因縁(いんねん)によるものだということ。仏教からきた考えがもとになったことわざで、「多生」は何度も生き変わることをいいます。また、前世と来世のことを意味する「他生」と書くこともあります。
 「多生」を「多少」と読み、「少し縁がある」と解釈する場合があるようですが、それは間違い。本来は「この世に生まれる前にいた世」からずーっとつながれてきた縁という意味なのです。
 さて、もうすぐ21世紀。新しい時代に、どんな新しい出会いが待っているのでしょう。ひとつひとつの巡り会いを大切にしていきたいですね。



参考資料
陰陽で読み解く日本のしきたり 大峡儷三/PHP研究所
冠婚葬祭の表書きと水引 岩下宣子監修/永岡書店
語源辞典/講談社
使えることわざ 日本語表現研究会/家の光協会

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