ルーツ探訪
2000年
9月
▼お月見はなぜ秋にするの?

●深く澄んだ天空にぽっかりと。お月見はやっぱり秋がいい。

 空気が澄む秋は、さらに美しく深く鮮やかに見えるからでしょうか。詩歌の世界では、古来「月」といえば、秋の月をさします。これは、「花」といえば、春の桜をさすのと同じ。そして、「名月」といえば、陰暦8月15日(新暦では9月中旬)夜の「中秋の満月」、「十五夜」をいいます。
 中国では、唐の時代から名月を観賞する習慣があり、それが奈良・平安時代の貴族の間に取り入られ、次第に武士や町民へと広がっていきました。しかし一方では、中国から伝わる以前に、わが国独自の農耕儀礼が行われていたという説もあります。暦がなかった時代、農事は月の満ち欠けによって進められ、なかでも最も大切な節目とされた十五夜には、収穫の感謝祭などが行われていました。今でも「芋名月」と呼びならわし、里芋などを供える地域が多いのは、その名残といわれます。
 十五夜には月見団子や果物を供えます。その昔は、このお供え物を子どもが盗んでもいいという、いたずら公認の風習が各地にありました。これは神に捧げられたものは、広くみんなで分け合って共同飲食するという考えによるものですが、最近では悪習としてすっかりすたれてしまいました。



●芋名月に栗名月。二つの月を愛でる心を忘れずに。

 いにしえの日本人の月に寄せる想いは熱く、たくさんの美しい言葉を生み出しました。十五夜への期待がふくらむ前夜は「待宵(まつよい)」、月は「小望月(こもちづき)」、待ちに待った当夜、雨や雲で見えないことを「雨月(うげつ)」「無月(むげつ)」。そして十五夜の次の月が「十六夜(いざよい)」、十七夜の月を「立待月(たちまちづき)」、十八夜は「居待月(いまちづき)」、そして4日めの月を「臥待月(ふしまちづき)」と呼び、日毎に表情をかえる月の風情を愛でてきました。
 また陰暦9月13日の月を「十三夜」「名残りの月」と呼び、十五夜とならべて祭る習俗もあり、どちらか片方の月しかみない「片月見(かたつきみ)」は縁起が悪いという地域もあります。「栗名月」の名もある十三夜の風習は、中国にはない日本独自のものです。
 さて、十五夜に十三夜。月を科学する時代になりましたが、この日ばかりは、先人にならって風雅に月を眺めてみたいものですね。



●美容と健康もサポートします「おたすけいも」

 十五夜は芋名月。芋という言葉を耳にすると、女性はサツマイモを、男性はジャガイモをイメージするのだそうです。
 サツマイモは、中央アメリカおよびメキシコの熱帯原産。日本へは1600年代、中国や南方諸島から沖縄・南九州に伝わったとされていますが、諸説あります。全国への普及は、江戸時代の蘭学者「甘藷先生」こと青木昆陽の業績が知られていますが、薩摩藩から種芋を取り寄せたためサツマイモの名が広がりました。また、沖縄ではカライモ(唐芋)、鹿児島ではリュウキュウイモ(琉球芋)と呼ばれるなど、サツマイモの伝わり方が推測できます。
 一方ジャガイモは、南米チリの原産で、アンデス山系にたくさんの野生種があります。16世紀にヨーロッパに伝わり、日本へは慶長年間、ジャワ(現在のインドネシア)から伝来します。ジャガトラ港からきたためジャガトライモと呼ばれていましたが、次第にジャガタライモとなり、それが詰まってジャガイモと呼ばれるようになったとか。品種のひとつ「男爵」は、明治時代にイギリスから種芋を輸入した川田男爵にちなんで命名されました。
 どちらも「おたすけいも」などといわれ、コメ、ムギ、マメはもとより、アワ、キビ、ソバなどが穫れない不作の年でも、ちゃんと収穫できる救荒作物でした。最近では、ビタミンCや良質の食物繊維を豊富に含むヘルシーな食材として、改めて見直されています。



参考資料
「年中行事事典」/三省堂
「日本人のしきたり ものしり辞典」/大和出版
「正月はなぜめでたいか」岩井宏實/大月書店
「食品図鑑」/女子栄養大学出版部
「まるごと楽しむサツマイモ百科」武田英之/農文協
「まるごと楽しむジャガイモ百科」吉田稔/農文協


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