ルーツ探訪
2000年
8月
▼7月と8月、お盆はどっちが本当?

●地域によって分かれるお盆の時期。

 とても忙しいことのたとえを「盆と正月がいっしょに来たようだ」などどいいますね。かつて日本では、一年を二期に分け、それぞれのはじまりにあたって、先祖の霊を家に迎え、供物をそなえて慰める魂祭り(たままつり)が行われていました。それが盆と正月です。このわが国固有の習俗に、仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)が結びついて、室町時代以降、現在のようなお盆の行事になったといわれています。かたやお正月は、神事の色彩が強いものとなって伝承されています。
 そもそもお盆とは、旧暦7月15日を中心として行われてきた行事です。現在では、東京は新暦の7月、関西ではひと月遅れの8月、また農村部でも作業がひと段落する8月に行うところが多いなど、地域によってまちまち。しかし、夏季休暇を利用した帰省ラッシュでもお馴染みの通り、今では8月の行事としてのイメージがすっかり浸透したようです。
 ふだんは遠く離れて暮らしていても、家族や親族が一同に顔を合わせる数少ない機会。これもご先祖様のお導きと思えば、お盆の風習もおろそかにはできませんね。



●まごころを込めて、先祖の霊をご供養します。

 正月が生きている者にとって、最も改まった行事であるとすれば、お盆は亡き者を慰める最も大切な行事です。
 お盆は13日の夕方、門前で苧殻(おがら)を焚いて、先祖の霊を迎える「迎え火」に始まります。そして15日(もしくは16日)夜の送り出しまでに、毎日心を込めたお供え膳で供養し、僧侶を招いてお経をあげてもらいます。今でも盛んに行われている盆踊りも、もともとは戻ってくる霊を迎え慰めるために捧げられたもの。“踊る阿呆に見る阿呆”で有名な徳島の阿波踊りもそのひとつです。
 家族とともに過ごした祖霊を彼岸へ送るのが「送り火」で、京都の大文字が全国的に知られています。また、お盆の供え物を小舟にのせて、灯火をつけ、川や海に流す精霊(しょうりょう)流し、燈籠流しが行われる地域もあります。この頃、残暑厳しいなかにも、夕暮れの風には秋の気配も宿り、送り火に送られて夏は去るともいわれます。



●おいしい秋茄子、みんなで仲良くいただきましょ。

 お盆には、茄子やきゅうりに苧殻(おがら)や割り箸で脚をつけた馬や牛をお供えします。これは、先祖の霊は馬に乗り、荷物を牛に背負わせて、行き来すると考えられているためです。
 昼と夜の温度差が大きくなる秋に、グンとおいしさを増す茄子は、インドの原産。その歴史はたいへん古く、紀元前5世紀頃には中国へ伝えられ、日本へは1200年以上前の奈良時代に渡来しました。現在では、京都の賀茂なす、大阪の水なす、宮城の仙台長なす等、地方色豊かな品種も多く、その数200種弱といわれています。
 食べ物にちなむことわざのなかで、よく知られているものに「秋茄子は嫁に食わすな」があります。これは、おいしい秋茄子を嫁に食べさせるのはもったいないという、姑の嫁いびり説が広く伝わっていますが、一方では茄子を食べると体が冷える、子宝に恵まれないなどの理由で嫁の身を案じたという説もあります。さて、科学的な根拠となると??いかがなものでしょうか。
 関東では茄子を「なす」と読みますが、関東では「なすび」が一般的。漬け物をはじめとして、煮ても、焼いても、揚げてもおいしい、初秋一番の食材。家族そろって、茄子の旬を心ゆくまで味わいましょう。



参考資料
「年中行事を科学する」永田久著/日本経済新聞社
「別冊太陽日本を楽しむ暮らしの歳時記夏号」/(株)平凡社
「年中行事事典」/三省堂
「食品図鑑」/女子栄養大学出版部


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