ルーツ探訪
2000年
6月
▼梅雨(つゆ)と言うのは、なぜ?

●じめじめの雨も、農作物にとっては恵みの慈雨。

 曇天を見上げて「いつまで降るのかしら」とグチのひとつも言いたくなる季節ですね。暦のうえでの入梅(にゅうばい)は6月11日頃。しかし、気象学上の梅雨入りは、もちろん毎年一定ではなく、気象庁が天気図と各種データから総合的に判断して発表します。「梅雨入り(梅雨明け)宣言はいつ出るのか」というのも、この時期、テレビや新聞を賑わせる話題のひとつです。
 ちなみに梅雨入りの平均日は、那覇5月12日、福岡6月7日、東京6月11日、仙台6月11日。これから約1ケ月、雨とのお付き合いが続きます。九州・近畿・四国・東海地方では、年降水量のほぼ3分の1が、この時期に集中して降る一方、北海道では梅雨がありません。
 多くの人にとって、一年でいちばん不快なシーズンである梅雨も、農作物、特に生育期にあたる稲にとっては大切な潤いの季節。雨が少ない空梅雨(からつゆ)ともなれば、その年の収穫に大きな影響を及ぼしますし、さらには夏の水不足も心配されるようになります。



●梅雨どきの表情をたくみにとらえた言葉、いろいろ。

 梅の実が熟する頃に降るから「梅雨」(ばいう)。また、この時期は長雨のため、黴(かび)が生えやすいことから、黴雨(ばいう)と書くこともあります。しかし、なぜ“つゆ”と発音するようになったのでしょうか。
 これには、●木の葉などにおりる露(つゆ)に関係がある ●物がしめって腐るという意味の「潰ゆ(ついゆ)」から変化した ●梅の実が熟す「熟ゆ(つゆ)」から転じた・・・・など、いろいろな説があります。いずれにしても、「梅雨」と「つゆ」は、同じ意味をもつものとして、いつの間にか重ねられて使われるようになったようです。
 入梅前のくずついた天気を「梅雨の走り」「走り梅雨」「迎え梅雨」、梅雨のなかばの好天気を「梅雨の中休み」、幾日も太陽が当たらずジメジメするのを「梅雨寒」「梅雨冷」、梅雨明け間近の激しい雨を「送り梅雨」、明けたあとにぶり返す雨を「戻り梅雨」「返り梅雨」、そのほかにも「梅雨晴間」「長梅雨」「梅雨じめり」など、梅雨どきには季節感をきめ細かにとらえた、感性豊かな言葉がたくさんあります。雨の季節を楽しむ気持ちで、普段の会話に取り入れてみてはいかがですか。



●あの“すっぱさ”が元気のもと、梅干し。

 梅雨の語源ともなった“梅”。梅は食用としての実ウメと、枝ぶりや花を観賞するための花ウメに大きく分けられます。梅の果実を加工して食べるようになったのは、鎌倉時代以降のことといわれ、それまでは春を告げる花として、その清楚な美しさが愛でられてきました。
 梅酢、梅酒、梅ジュース、梅肉エキス、のし梅・・・・梅の加工品は数あれど、最もお馴染みなのが梅干しではないでしょうか。「朝昼晩と梅を食べれば、医者いらず」といわれた梅干しは、昔から家庭の保健薬的な食べものとして上手に取り入れられてきました。その医食同源の秘密は、あの独特のすっぱさにあります。クエン酸やリンゴ酸を中心とする有機酸は、殺菌や疲労回復、そして食欲増進などにパワーを発揮します。胃腸の調子が悪い、疲れやすい、食欲がない、などの夏バテ対策にうってつけです。また、お弁当やおにぎりのなかに入れるのは、腐敗菌の繁殖を防ぐ梅干しの防腐効果を期待してのこと。先人の知恵に脱帽ですね。
 昔は、塩と梅酢で調理したことから塩梅(あんばい)という言葉が生まれました。梅干しを食べて、ゆううつな梅雨の時期を「あんばい良く」過ごしたいものですね。



参考資料
「日本人のしきたりものしり辞典」樋口清之監修/大和出版
「海の幸・山の幸大百科第III巻」/株式会社ぎょうせい


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