ルーツ探訪
2000年
2月
▼節分に豆をまくのは、なぜ?

 今回のテーマは「節分」。この日、各地の有名社寺では、歌手や俳優、力士などを年男として招き、賑々しく豆まきが行われます。その光景はテレビや新聞などでお馴染みですが、さて、この豆まきのルーツはどこにあるのでしょうか。「福は内、鬼は外」の元気な掛け声とともに探訪してみましょう。

●将軍さまも楽しんだ豆まき?!

 もともと節分は、立春、立夏、立秋、立冬の前日をさし、年に4回ありましたが、現在では大寒の終わる日、つまり立春の前の日だけを呼ぶようになりました。節分のルーツは、中国で古くから行われていた追儺(ついな)の儀式に由来するものと考えられています。追儺は、紀元前3世紀の秦の時代にはすでに行われており、豆で鬼打ちをし、疫病や災害を追い払うというものでした。日本へは、遣唐使によってもたらされ、宮中の年間行事として、鎌倉時代末頃までは大晦日に行われていました。今でも節分を、年越し、年取り、節変わりと呼ぶ地域があるのは、その名残でしょうか。
 さて、節分と言えば「福は内、鬼は外」の豆まき。宮中の行事が民間に伝わっていったとも、中国の明時代の風習が輸入されたともいわれていますが、日本では室町時代から始まったようで、将軍様も豆打ちに興じたという話も残されています。
 また、節分にはひいらぎの枝に、焼いた鰯の頭を刺したものを玄関口や門にたてるという習いもあります。これは、悪病が入ってきても、ひいらぎの棘に刺さって痛がり、鰯の悪臭にびっくりして逃げていくように、という意味が込められているのです。



●寒さと病気を振り払って、まめで達者で。

 節分には欠かせない憎まれ役の「鬼」とは何なのでしょう。これは冬の寒気であり、病気であったと思われます。暖房も医療もままならなかった時代には、冬はことさらに厳しい季節であったはず。「人に災いをもたらす、目に見えない隠れたもの」を鬼とし、家のすみずみから追い払うことで、我が身にふりかかる一切の災難を振り切り、健康で平和な暮らしを営むことができるようにと想いを込めたのでしょう。
 さて、日本人は健康であることを「まめ」といいます。豆に語呂を合わせたもので、大豆はまさに健やかさの象徴です。節分には煎った大豆を、年の数だけ食べるというのが習わし。また一部では、年よりひと粒だけ多く食べて、「来年もまめで達者で」と願う地域もあります。



●スーパー・ビーンな大豆パワー 

 畑の肉とも言われほど良質のたんぱく質に富み、ビタミン類や鉄分、カルシウムも多く含む大豆は、まさに「まめ=健康」のもと。さらに最近の研究で、大豆に含まれる大豆イソフラボンが、生活習慣病を抑制するということがわかり、たいへん注目を浴びています。
 大豆を規則的に摂ると、悪玉コレステロールや総コレステロールの濃度を低下させ、善玉コレステロールの比率を高めてくれる作用をもたらします。つまり血液がサラサラになり、血行を促進、血管をきれいにしてくれるというわけです。大豆が多くの病気の素となる血液に直接働きかけることで、がん細胞の増殖を抑制したり、糖尿病や高血圧、動脈硬化を予防してくれるという次第。また、女性ホルモンの不足からくる、骨がもろくなる病気=骨粗鬆症の予防・治療にも効果があるということがわかっています。
 豆腐、納豆、みそ・しょうゆ・・・なくてはならない台所の常備食はいずれも大豆加工品。ほかにも豆乳、きな粉、おから、厚揚げ、湯葉、大豆油、もやし、枝豆、などなど。毎日、規則正しく大豆を食べることの重要性を、昔の人は知っていたようです。さらには先人が知らなかった、驚きの大豆パワーが科学の目で明らかになってきています。おいしく食べて健康に・・・大豆からのメッセージに耳を傾けてみませんか。



参考資料
「年中行事を科学する」永田久著/日本経済新聞社
「現代こよみ読み解き事典」岡田芳朗、阿久根末忠編著/柏書房
「年中行事儀式事典」川口謙二、池田孝、池田政弘著/東京美術
「海の幸・山の幸大百科第III巻」/株式会社ぎょうせい


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