ルーツ探訪 2007年
11月

★ 宮城県


●病気の父親のために…孝行息子の温かな気持ちがこもる《白石温麺(しろいしうーめん)》

 宮城県の南、蔵王の東の入り口にある城下町・白石市。山から乾燥した風が吹き降ろし、豊かな水をたたえた清流が町を縦横に流れる気候風土は、いかにも乾麺づくりに適しています。この地の名産として知られているのが「白石温麺(しろいしうーめん)」です。“温かな麺”という名の由来は、およそ300年前にさかのぼります。
 『胃の病気で食が細り、体が弱っていく父親を心配した孝行息子。旅の僧から“油を使わない麺”の作り方を教えてもらい、苦心の末、完成させた。細い麺は消化もよく、滋養もたっぷり。父親に食べさせたところ、食欲を取り戻し、みるみる快復した。この話を聞いた城主の片倉公は、息子の温かな心を褒め称え、「温麺」と名付けるとともに、生産を奨励したため、特産品となった』というものです。白石温麺の原料は、他の乾麺と同じく、小麦粉、食塩、水です。麺は細く、長さが9センチ程度と食べやすく、そのうえゆで時間も短くて済み、調理しやすいのが特徴です。そうめんなどと同様に、ゆでて冷水にさらして引き締めた麺に、しょうゆやみそ、クルミでつくったタレをつけて食べるのが一般的ですが、温麺はその名の通り、温かなつゆでいただく調理法も人気です。つるつる、さっぱりと食べられ、確かに風邪などで食欲のないときにオススメしたい食材です。地元の家庭では、ゆでた麺を炒めたてパスタや焼きそば風にしたり、サラダやあえものにしたり…と工夫を凝らして食卓にのせています。
 江戸時代、この地方で「白石三白(3つの白いもの)」と呼ばれた特産品に、和紙、くず粉、温麺がありました。くず粉は時代とともにすたれ、白石和紙はその質の高さで人気がありますが、現在は数件の工房が伝統を伝えるのみ。そんななかで温麺は、その知名度・人気ともに健在で、市内には、専門店が軒を連ねています。

●政宗公もお気に入り。味を付けてふっくらと炊き上げたご飯がポイント 《はらこ飯》

 阿武隈川河口に開ける亘理町では、かつて鮭の地引網漁が盛んに行われていました。大漁の際に、浜料理として振舞われたのが「はらこ飯」。江戸時代の初め、この付近では名取川河口までの運河(後の貞山堀)をひらく工事が行われていましたが、その視察に訪れた伊達政宗公にも献上され、ことのほかお気に召されたという逸話が伝えられています。
“はらこ”とは、鮭の卵(イクラ)のこと。基本的な作り方は、まず脂のたっぷり乗った鮭の切り身をしょうゆ・砂糖・日本酒でふっくらと煮ます。残った煮汁は捨てずに、味をととのえ、ご飯を炊き上げます。ホカホカのご飯のうえに、はらこと味をつけた切り身をのせ、のり、三つ葉などを散らしたら出来上がり。ご飯のうえに鮭の切り身とイクラをのせた丼物は各地にありますが、こちらはご飯にも味付けがなされるところがポイントです。
はらこ飯は、鮭の旬である10月から11月半ばにかけてしか味わえない郷土料理ですが、亘理町では、春にはあさり飯、夏はしゃこ飯、冬はほっき飯、通年ではつぶ飯…と四季折々の海の幸を、食堂・レストランで提供しています。新鮮な素材をシンプルな調理法でいただくメニューは、わざわざ足を伸ばしてまで味わう価値アリと大人気です。




参考文献・サイト
「日本の食生活全集 宮城」編集委員会 『聞き書 宮城の食事』 (社)農山漁村文化協会
読売新聞東京本社地方部編 『郷土食とうほく読本』無明舎出版


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